※2020年11月7日18時(日本時間)時点の米国大統領選の開票状況をもとにしています。
米国大統領選は7日、民主党のジョー・バイデン候補が共和党の現職ドナルド・トランプ候補を破って勝利しました。バイデン氏はデラウェア州で演説し、勝利を宣言しました。トランプ氏はなお敗北を認めていません。この先トランプ候補が複数の週で郵便投票には不正があるとして訴訟を起こしており、この先も決着がつかないことを予想する向きもありますが、バイデン氏勝利で動いていくでしょう。
株式相場全体としては、トランプ再選でも、バイデン勝利でも、早期に追加の景気刺激策がまとまると思うのでサポート要因になります。上院議会では引き続き共和党が過半数を占めますが、議会での経済対策の審議は再開すると予想しています。現行のFRBによる超金融緩和が市場を支え、株価は年末に向けて不確定要因がなくなったことで、再度最高値を目指す展開になりそうです。
バイデン勝利に伴う増税や国債の大増発の懸念は大きくなっています。増税は将来的には悪影響ですが、すぐに実施は難しく、速くても2022年からではないでしょうか。もし増税された場合は、増税の実施期日までに投資目的の投資家は利益確定を進める可能性が高まります。一回低い税率でキャピタルゲインを確保して、その後投資スタンスを再考することになります。再度買う人は簿価が上がっただけです。しかし、一旦売り物が出ることで来年の株式市場は心配です。
グリーン・ニューディール政策は一層進んでいくでしょう。石油・天然ガス関連企業には補助金の廃止もちらつかせていたことから、石油・ガスなどのエネルギー業界は期待できません。旧世代自動車会社とともに最も影響を受けるセクターとなるでしょう。
バイデン政権の景気刺激策、新型コロナ感染対策、対中国政策などを考える
金融規制により、銀行セクターは引き続き頭が重い展開となるでしょう。低金利環境も銀行経営にはマイナスです。今年倒産した企業の回収率が低く低迷しているといった報道も出始めています。CDS市場にも影響が出始めています。クレジットに対するヘッジ・コストも上昇してくると、銀行には悪影響が出ます。
自動車の排ガス規制は強化されるでしょう。既存の自動車業界は次世代自動車の開発を進めないと生き残れない可能性があります。テスラなどの次世代自動車業界は恩恵を大いに受けるでしょう。
新型コロナ感染が世界的に再度広がっていることから、航空関連やレジャー、ホテルなどは引き続き低迷すると考えられます。追加の経済対策でこうした特殊要因で事業環境が悪化している業種への補助金がどうなるかは今後の大きなポイントです。トランプ以上にバイデンは、中間所得層を守ると予想されることから個別業界への支援が行われる可能性が高いです。
中国との関係については、これまで通り対決強硬姿勢をある程度維持するでしょう。しかし、対話は進めるとのことなので、これまでのように関税引き上げとかはなくなる可能性があります。ただし、次世代ハイテク技術開発に関しては、バイデン政権もそれなりに対処していくと思われるので、中国関連のフィンテックやSNS関連銘柄は、少なからず調整が起こる可能性もあります。(90年代のクリントン政権では、対日自動車貿易で日本を多いに苦しめました。)
一方、オバマケアの撤廃や公的医療保険の予算削減を目指していたトランプの政策が変更されることにより、保険会社は期待があった分下げる可能性があります。ただし、コロナ関連の恩恵を受けるかもしれません。
新型コロナのワクチン開発は引き続き市場の注目を集めるでしょう。注目セクターとしては、この半年間相場をけん引してきた、ニュー・ハイテク・エコノミー関連株がさらに恩恵を受けると予想されます。
新型コロナ感染が再度広がっていることから、eコマース分野は引き続き恩恵を受けるでしょう。また、バイデンになった場合。再度ロックダウンが広がる可能性もあります。対応は個別の週や都市が判断することになりますが、バイデンになったことでロックダウンはやりやすくなると思われます。
選挙が終わったことで、追加の経済対策も議会で法案化されるでしょうし、議会との間でねじれが生じていますが大規模な経済対策は行われます。増税は上院の反対にあってすぐにできないかもしれませんが、景気対策の資金は、国債の発行で資金を捻出するしかありません。国債が増発されたとしても、FRBが長期国債を追加で買い入れることで、景気が元通りになるまでは、超低金利環境が継続すると思われます。長期金利が上昇したところは、購入してもいいかもしれません。低金利環境が継続することから、恩恵を受けるのは、不動産・住宅関連セクターです。郊外の一戸建て需要は引き続き住宅建設市場を下支えするでしょう。オフィスへの需要はコロナ関連で低迷するかもしれませんが、低金利の恩恵を受けて何とか踏みとどまると思われます。
大型景気刺激策で買われる米国株のセクター(業種)は?
大きなポイントは、3つあります。
まずは、大型景気刺激策が早期に実現することで、その対象となる業種は恩恵を受けるでしょう。景気対策には、ボーイングやエアラインを救済するのかどうかもポイントとなってくるでしょう。
もう一つは、超低金利環境が続きそうだということです。借入金額の大きい業種は恩恵を受けるでしょう。エネルギー関連やインフラ企業、住宅関連、不動産関連も恩恵を受けるでしょう。春以降に上昇してきた銘柄やセクターは再度新高値、上値を目指す展開となりそうです。
3つ目は、グリーン・ニュー・ディール政策に実行です。アメリカのエネルギーは、石油・ガスから代替可能エネルギーに大きくシフトしていきます。
セクター | トランプ再選の場合 恩恵度合い | バイデン当選の場合 恩恵度合い |
エネルギー (石油・天然ガス) | 〇 短期的には◎ | ▼ |
ハイテク(情報技術) | 5Gは◎ | 6Gは◎ |
半導体 | まちまち | まちまち |
不動産・住宅 | ◎ | ◎ |
通信サービス | 〇 | 〇 |
eコマース | ◎ | ◎ |
金融 | 〇 まちまち | 〇 まちまち |
自動車 | ○ | △ |
次世代自動車 | ○ | ◎ |
公益事業 | ○ | ○ |
クリーン・エネルギー | △ | ◎ |
インフラ | ○ | ○ |
ヘルスケア | 〇 ワクチン関連は◎ | 〇 ワクチン関連は◎ |
生活必需品 | ◎ | ◎ |
小売 | △(銘柄による) | △(銘柄による) |
素材 | 〇 | 〇 |
ホテル | △ | △ |
レジャー・カジノ | △ | △ |
航空 | △ | △ |
来年以降の米国経済政策で気になる点
民主党は大統領候補者を決定する過程で、若者に人気のあった急進左派のバーニー・サンダース氏やエリザベス・ウェーレン氏に勝ち大統領候補者となりました。民主党内では、急進左派に属する議員も数多く、来年以降そうした急進左派の声も聞かなけばならなくなることも考えられます。バイデン大統領が声まで公約としてきた中道的な政策から左よりの政策を打ち出してくる可能性も高いです。特にコロナ禍では左寄りの政策は受けが良くなることから、心配です。中期的には、増税のみならず、政策の左転換は注意深く見ていきましょう。株式にとっては明らかに悪い影響となります。
経済政策を助言しているジャレッド・バーンスタイン氏は、バイデン政権で国家経済会議(NEC)委員長もしくは財務長官に就任すると噂されています。そのバーンスタイン氏は、「バイデン氏はフランクリン・D・ルーズベルト(FDR)大統領(1933~45年)のように構造改革の必要性を理解している」と話しています。バーニー・サンダース上院議員も、NBCニュースに対し「タスクフォースの提案が実行されれば、バイデン氏はFDR以来、最も急進左派の大統領となる。
今日、われわれはそれを必要としている」と語っています。FDRは急進左派が称賛する大統領であるものの、つねに左派のイデオロギーに固執していたわけではありませんでした。しかし、FDRは大恐慌後のニューディール政策で社会保障、失業保険など今日も政府の役割として重視されている改革を実現しました。バイデン氏もカマラ・ハリス副大統領候補も、FDR同様に、その時代の主流の政策に合わせてきた政治家で、民主党穏健派のイデオロギーにこだわらないでしょう。
FDR政権発足時と同じく、今のアメリカもさまざまな危機的事態に直面していることからも、バイデン氏が政権発足時に急進左派などが求める大胆な社会経済政策、いわゆる「新ニューディール政策」を導入しやすい環境にあると言えます。
因みに、バーンスタイン氏は最近、政策に優先順位を問われた際、「ウイルスの管理無くして持続的で力強い回復は想像できない、したがってそれが第一歩だ。」と語っています。「第2部として、景気後退に苦しむ家計と企業を支えるための追加的な財政政策が必要になるだろう。」「その後、グリーエネルギーや医療保険の対象拡大といったより恒久的、持続的な課題に移っていく。」と語っています。
ただし、上院は共和党が現状維持になりそうなので、ねじれた状態が続きます。バイデン政権が「新ニューディール政策」を打ち出すことはできても、大統領権限で実行できることは限られるでしょう。
為替相場への影響
アメリカ市場はリスクオンになっていますが、現在ドル安円高の流れが起こっています。海外(日本や欧州)からの米国投資は、これまで金利差があったので、ヘッジ取引には消極的であったと思いますが、アメリカの金利がほぼ0%になったことで、日本や欧州からの証券投資の為替部分はヘッジコストがかからないヘッジ付きに大きくシフトすると考えられるので、潜在的な円買い、ユーロ買いの需要はまだまだ大きいと予想されます。 特にドル円の場合、アメリカのリスク資産は価格が上昇していることで、リスク資産は売却せず、円高へのヘッジ行動は一気に進んでいると考えられます。ドル円に限っては、これから年末越えのドル調達は始まることで、年末のジャパン・プレミアム発生の心配もあります。特に銀行への規制強化の話が出た場合、今年の年末越えのドル資金の調達や為替ヘッジ・ポジションに影響が出始めておかしくはありません。年末に向けて、さらなる円高のリスクは注意しておいた方がいいでしょう。