米国ハイテク株と米国ETFの最新分析

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2021年第1四半期の米国株式市場について

2021年第1四半期の米国株式市場は、長期金利上昇、ハイテク銘柄が中心のNASDAQが売られ、大型株式中心のS&P500指数やダウ指数は上昇しました。多くのストラテジストや評論家は、長期金利の上昇によりハイテク株のバリュエーションが変わって割高感から売られたともっともらしい説明をしますが、もっと単純に考えた方が分かりやすいと思います。

なぜか?簡単に言うと、機関投資家がポジション調整しただけではないでしょうか?多くの機関投資家は、年間の運用計画を持っていて、大まかな資産配分を決めています。日本でいえば、GPIFのような機関投資家のことです。GPIFの場合は、国内債券、国内株式、外国債券、外国株式で、それぞれ25%を目安に資産配分して運用しています。実際の運用では、上がるものもあれば下がるのもあるので、ある程度バッファーを設けています。GPIFの売位は以下の通りです。国内債券25%(±7%)、外国債券25%(±6%)、国内株式25%(±8%)、外国株式25%(±7%)です。また、債券全体50%(±11%)、株式全体50%(±11%)です。

GPIFではなく、米国の大手機関投資家の場合を考えた場合、株式のなかでも、いくつかのカテゴリーに分散投資しています。S&P500指数の構成銘柄が最も人気で大きなアロケーションですが、ハイテク株中心のNASDAQ指数やダウ指数、中小型指数、高配当株式指数、グロース株指数、バリュー株指数などに振り分けています。

毎年、年度末もしくは年度が替わったときに、上がり過ぎたものは割合を落とし(売却)、下がったものは割合を増やします。では、昨年(2020年)のパフォーマンスを見てみましょう。

2020年年間パフォーマンス比較

2019年末基準米投資適格 社債指数米ハイイールド 社債指数米国債 指数SP500 株価指数 (大型)DJIA 株価指数(超大型)WILL5000 株価指数 (全銘柄)NASDAQ 株価指数 (ハイテク)
20年年間10%6%16%16%7%22%44%
出所:FRB St.Luiseから各指数を引用しました。

昨年は、金利が急低下したので、債券特に国債のパフォーマンスは高かったです。また、株式のなかでも、ハイテクのNASDAQや中小型株も含む株価指数が高かったです。つまり、大手の機関投資家が2021年という新しい年度に入ったことで、リバランスを行っただけです。今年の2月に売られたのは、昨年最もパフォーマンスの良かった米国債、NASDAQ、小型株でした。一方、昨年パッとしなかったダウやS&P500といった大型株は底堅く推移しました。単純に資金を入れ替えただけと考えた方が分かりやすいと思います。

2021年3月末までのパフォーマンス

2021年 年初来米投資適格 社債指数米ハイイールド 社債指数米国債 指数SP500 株価指数 (大型)DJIA 株価指数 (超大型)WILL5000 株価指数 (全銘柄)NASDAQ 株価指数 (ハイテク)
-4%1%6%6%8%6%3%
出所:FRB St.Luiseから各指数を引用しました。

今年の第1四半期の調整で、いい感じにポジション調整ができたとみた方がいいでしょう。機関投資家の考え方はそんなものです。相場に喧嘩するように投機的ポジションをとったら、むしろスポンサーから怒られます。なにがプロなのかよく分かりません。

FRBの金融政策スタンスが大きく変わったわけではありません。これからは、昨年と同じようにハイテク株主導の相場に戻っていくと思います。1999年のITバブルの時も、長期金利は上昇していながらも株価はNASDAQ主導で上がっていました。実際に相場が転換したのは、年度が替わって、しかもFRBが金融引き締めに動きだしてからでした。今年も株式の上昇基調は変わらないとみた方がいいでしょう。今は割高だという声が多くあるので、まだまだ上昇基調は続くと思います。

しかし、FRBがテイパリングをはじめたら、環境が転換するので売っていきましょう。またその時には、高配当銘柄などディフェンシブ銘柄にアロケーションを変更する準備は始めておきましょう。でもまだ先のことです。半年以上時間はあります。

米国ETFへの資金フローを見る

ここで、ETFへの資金フローを見直してみましょう。まずは、第1四半期の年初来3月までの動きです。2021年第1四半期のETFは、熱いスタートを切り、記録が積み重なりました。ファクトセット社の最新データによると、米国の上場ETFの第1四半期の新規資金流入額は2,454億ドルで、四半期としては過去最大となりました

この四半期には、1月に657億ドル、2月に887億ドル、3月に904億ドルと、非常に好調な月が3つありました。実際、3月と2月は、昨年11月の912億ドルに次いで、ETFの流入額が2番目と3番目に多い月となっています。

第1四半期を終えて、2021年の累計流入額(第1四半期と同額)は、1年前の同時期の719億ドルの3倍以上となっています。現在のペースでいけば、2021年の資金流入額は年末までに1兆ドルに近づき、2017年に記録した4,761億ドルという年間記録の2倍以上になります。

米国ETFのへの強力な資金流入の背景

2021年の資金流入の背景には、好調な株式市場と経済があることは間違いありません。S&P 500は第1四半期に6.2%、ラッセル2000は同期間に12.9%の急騰を記録しました。

経済学者の最新の予測によると、株式市場は景気刺激策を背景に、第2四半期には年率11.7%、通年では5.7%の経済成長が見込まれています。これにより、2021年は1984年以来の力強い成長を遂げる可能性があります。同様に、この力強いGDP成長は、企業の収益成長にも大きく貢献すると予想されます。FactSet社の予測によると、S&P500社の利益は今年25%増加し、COVID以前の水準を超える可能性があります。また、来年はさらに15%の増加が見込まれています。

このような背景から、投資家がETFに積極的に資金を投入するのは当然のことであり、第1四半期には米国株ETFに1,199億ドルが投資されました。また、投資家は海外の株式にも積極的で、関連するETFに825億ドルを投資しています。

Vanguard S&P 500 ETF (VOO)、Vanguard Total Stock Market ETF (VTI)、Financial Select Sector SPDR Fund (XLF)は、それぞれ90億ドル以上の資金が流入しており、今年のトップの資産を集めています。

VTI ETF(バンガード・トータル・ストック・マーケットETF)とは

債券の低調な年

一方、米国の債券ETFは、最近の基準では比較的低調な年となっています。第1四半期の債券ETFへの流入額は313億ドルにとどまりましたが、市場環境を考慮すると、これはそれほど悪いことではありません。年初から3月末までの間に国債価格は暴落し、ベンチマークである10年債の利回りは0.91%から1.74%に上昇しました(債券価格と利回りは反比例する)。

iShares 7-10 Year Treasury Bond ETF (IEF)、 iShares 20+ Year Treasury Bond ETF (TLT)、 iShares Core U.S. Aggregate Bond ETF (AGG)は、当四半期中にそれぞれ5.7%、13.9%、3.4%下落しました。同時に、iShares iBoxx USD Investment Grade Corporate Bond ETF (LQD)とiShares iBoxx USD High Yield Corporate Bond ETF (HYG)は、年初来の償還額がそれぞれ104億ドルと46億ドルとなり、年間の流出額の上位に入っていました。同じく金利に敏感なファンドであるSPDR SPDR Gold Trust(GLD)は、同時期に75億ドルの流出がありました。

米国成長株の乱高下

第1四半期の米国株価は全般的に上昇しましたが、市場の一部では株価の変動が隠蔽されていました。特に、グロース株は2月中旬の高値から3月の安値まで急落しました。特に、グロース株は2月中旬の高値から3月の安値まで急落し、現在最も人気のある高グロース株ファンドの1つであるARK Innovation ETF(ARKK)は、わずか3週間でピークからトロフまで29.6%下落しました。しかし、興味深いことに、投資家はこのETFに対する信頼を失うことはありませんでした。

ARKKは実際、今年最も需要のあったファンドの一つであり、年間累計で65億ドルの新規資金を獲得しています。確かに、ARKKは5日連続で資金が流出した荒れ模様の時期もありましたが、ファンドの資産に大きな打撃を与えることはありませんでした。3月31日には7億1,700万ドルの資金が流入し、1日の流入額としては過去最大となりました。ARKへの投資家の信頼は、ARKだけではなく、発行会社のすべての商品に及んでいます。ARKの8つのETFには、それぞれ累計で161億ドルの資金が流入しています。これには、3月末に発売されたARKの最新ファンドであるARK Space Exploration & Innovation ETF (ARKX)への2億8100万ドルの流入が含まれています。ARKのETFの総運用資産は438億ドルとなり、ARKはETF発行会社として第10位となりました。

今年第1四半期の流入額と流出額の上位リストは、以下の表をご覧ください。

21年の米国ETF年初来資金流入上位10

ティッカーシンボルETF銘柄発行会社純流入額
($,M)
総資産残高
($,M)
% of AUM2021年
3月
純流出入額
($,M)
VOOVanguard S&P 500 ETFVanguard17,072.12205,260.478.32%4,142.00
VTIVanguard Total Stock Market ETFVanguard9,744.13222,910.404.37%4,342.04
XLFFinancial Select Sector SPDR FundState Street Global Advisors9,106.5538,499.3323.65%1,947.49
IVViShares Core S&P 500 ETFBlackrock8,758.70260,617.683.36%2,748.77
IEMGiShares Core MSCI Emerging Markets ETFBlackrock7,434.1678,103.469.52%3,482.02
ARKKARK Innovation ETFARK6,483.9321,308.2530.43%897.63
IUSBiShares Core Total USD Bond Market ETFBlackrock6,397.6112,081.0652.96%1,952.27
BNDVanguard Total Bond Market ETFVanguard5,668.3171,031.837.98%1,034.44
VWOVanguard FTSE Emerging Markets ETFVanguard4,689.8278,268.355.99%2,799.53
VTVVanguard Value ETFVanguard4,641.7773,139.496.35%2,268.76
出所:ETF.com

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21年の米国ETF年初来資金流出上位10

ティッカー
シンボル
ETF銘柄発行会社純流出額
($,M)
総資産残高
($,M)
% of AUM2021年
3月
純流出入額
($,M)
LQDiShares iBoxx USD Investment Grade Corporate Bond ETFBlackrock-10,437.5341,738.61-25.01%-2,725.10
GLDSPDR Gold TrustState Street Global Advisors-7,516.7356,151.41-13.39%-3,081.44
USMViShares MSCI USA Min Vol Factor ETFBlackrock-5,581.9328,374.59-19.67%-1,233.80
HYGiShares iBoxx USD High Yield Corporate Bond ETFBlackrock-4,621.2321,031.54-21.97%-927.31
QUALiShares MSCI USA Quality Factor ETFBlackrock-2,889.6619,580.95-14.76%-381.56
SPYSPDR S&P 500 ETF TrustState Street Global Advisors-2,794.38343,730.26-0.81%-160.1
XLPConsumer Staples Select Sector SPDR FundState Street Global Advisors-2,432.1810,983.45-22.14%-47.82
TLTiShares 20+ Year Treasury Bond ETFBlackrock-2,260.2414,308.10-15.80%843.3
JNKSPDR Bloomberg Barclays High Yield Bond ETFState Street Global Advisors-2,113.7310,345.78-20.43%589.39
SHViShares Short Treasury Bond ETFBlackrock-1,914.1615,917.89-12.03%-351.45
出所:ETF.com

2021年1月~3月アセット別ETF純資金流出入額

 純流出入量額
($,M)
総資産残高
($,M)
% of AUM
米国株119,889.003,423,444.403.50%
グローバル株82,543.001,166,506.117.08%
米国債券31,291.47974,873.293.21%
国際債券9,663.05129,412.557.47%
商品-5,752.27127,238.86-4.52%
為替5.431,883.610.29%
レバレッジ3,671.5051,867.507.08%
インバース1,888.3011,715.3616.12%
アセット・アロケーション940.514,500.046.49%
オルタナティブ1,233.125,910.5720.86%
全体245,373.105,907,352.284.15%
出所:ETF.com

グローバル株とインバース型、オルタナティブ型へ資金が流入しています。流出したのは、商品です。特に金など貴金属商品ETFで資金が流出していました。

2021年4月に入ってからの米国ETFの最新動向

第1四半期で調整が終わったと思うので、次は4月の動向を見てみましょう。

2021年4月の米国ETF 純資金流入額上位10銘柄:~4月21日

ティッカー
シンボル
ETF銘柄純流入額
($,M)
総資産残高
($,MM)
% of AUM
SPYSPDR S&P 500 ETF Trust4,597.83362,8701.3%
VTIVanguard Total Stock Market ETF3,844.74237,3701.6%
VOOVanguard S&P 500 ETF3,177.60218,8301.5%
IVViShares Core S&P 500 ETF1,874.66274,9000.7%
BNDVanguard Total Bond Market ETF1,732.6472,9702.4%
AGGiShares Core U.S. Aggregate Bond ETF1,563.6786,3501.8%
IYRiShares U.S. Real Estate ETF1,501.666,42023.4%
ARKKARK Innovation ETF1,463.9723,8306.1%
LCTUBlackRock U.S. Carbon Transition Readiness ETF1,283.301,31098.0%
EMBiShares JP Morgan USD Emerging Markets Bond ETF1,198.7819,0306.3%
出所:ETF.com

2021年4月の米国ETF 純資金流出額上位10銘柄:~4月21日

ティッカー
シンボル
ETF銘柄純流出額
($,M)
総資産残高
($,MM)
% of AUM
TQQQProShares UltraPro QQQ-1,591.1011,760-13.5%
ILCGiShare Morningstar Growth ETF-1,523.541,890-80.6%
IWMiShares Russell 2000 ETF-1,406.4166,940-2.1%
IMCGiShares Morningstar Mid-Cap Growth ETF-1,386.441,540-90.0%
GLDSPDR Gold Trust-855.158,280-1.5%
SHViShares Short Treasury Bond ETF-818.8915,150-5.4%
ISCGiShares Morningstar Small-Cap Growth ETF-705.73776-90.9%
ILCBiShares Morningstar U.S. Equity ETF-697.97905-77.1%
IMCBiShares Morningstar Mid-Cap ETF-688.78877-78.5%
MBBiShares MBS ETF-661.1425,800-2.6%
出所:ETF.com

S&P500指数をトラックするETFや全株式が対象のVTIは、もともと人気ですが相変わらず資金流入が続いています。不動産のIYRに資金流入が大きいです。ARKKも相変わらず人気のようです。

流出が大きかったのは、3倍レバレッジがかかったTQQQでした。第1四半期のオアフォーマンスが悪かったので仕方ないかと思います。相場が始まったばかりなので、慎重にリスクの大きすぎるポジションは晴らした方がいいでしょう。中小型株のETFも資金流出が大きいです。米国債のリバース型で流出がありましたが、一旦長期金利の上昇が落ち着いたと見てもいいのかもしれません。とりあえず、4月21日までのデータですが、4月末までに、どう変化するか来月月初にまとめてみます。バイデン政権が、富裕層へのキャピタルゲイン課税強化のうわさが出ていますが、この動向は要注意です。

ハイテクETF TQQQとは?どこの証券会社で買えるの?

この先、NASDA指数にトラックするQQQに資金流入が始まれば、夏に向けたサマーラリーが起こっても不思議ではありません。第1四半期のハイテク株下落はあまり気にする必要はないのかもしれません。相場環境としては、2020年とあまり変わっていないのかもしれません。まずは、4月に資金流入している銘柄についていくというのも一つの投資アイデアかもしれません。

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