世界最大規模のヘッジファンドブリッジ・ウォーターと創業者レイダリオの投資戦略

大きな資金を運用するヘッジファンドは、時に市場を大きく動かします。

そんなヘッジファンド界で、長年世界最大規模の運用資産を誇るのがレイ・ダリオ氏が率いるブリッジウォーター・アソシエーツです。

レイ・ダリオ氏は、ヘッジファンドの帝王とも呼ばれており、彼の発言は多くの投資家が注目しており市場を左右することもあるほどです。

そんなブリッジウォーターはどのようなヘッジファンドなのか。またレイ・ダリオ氏はどういう人物でどのような投資戦略を取っているのか解説します。

ブリッジウォーターとは

ブリッジウォーター・アソシエーツ(Bridge Water associates)とは、長年運用資産額トップクラスを維持しているヘッジファンドです。2008年のリーマンショックの際もプラス12%の運用成績で乗り切りました。

1975年、レイ・ダリオ氏がマンハッタンにある同氏のアパートのオフィスで創業しました。当初は、企業顧客へのアドバイスと、国内外の通貨・金利リスクの管理、そして自己売買のみでした。

▼ブリッジウォーターの概要

拠点:アメリカ、コネチカット州
運用資産:1480億ドル(約15兆6000億円)
創業者:レイ・ダリオ
設立:1975年
投資戦略:アルファ戦略
顧客:約350の公的年金基金や大学、慈善財団や政府機関等の大口顧客

ブリッジウォーターの創業来の年率平均リターンは13%以上ですが、2001~2010年には年平均25%を誇っていました。

欧州債務問題や運用成績の悪化を背景に、多くのヘッジファンドが苦戦を強いられる中、2010年には運用成績が45%という驚異的なパフォーマンスを誇りました。

この時の利益額は、同時期のグーグル・アマゾン・ヤフー・イーベイを上回ったようです。

同社のHPより

オフィスは、アメリカ、コネチカット州の森と小川に囲まれた場所にあり、まるで山荘のようだそうです。オフィス内には、無料の高級カフェテリアなどがあり、労働スタイルがフレキシブルだったりと、IT企業のような会社です。

運用で利用しているシステムは社内開発が多く、アクセンチュアなどの一流企業出身者が占めているそうです。

社員は「知的なネイビーシールズ」と呼ばれており、自身のパフォーマンスを常に晒されていたり、常にトップであるダリオ氏に意見をぶつけることを要求されているそうです。

そのような厳しく競争が激しい文化のためか、新入社員の約3分の1は18カ月以内に辞めるそうです。

顧客には、カリフォルニア州の公務員の年金運用のカルパースや、ハートフォード生命など大口機関投資家から中央銀行からも運用を任せられているそうです。

ヘッジファンドブリッジ・ウォーターの投資戦略

ブリッジウォーターの投資戦略は、アルファ戦略と呼ばれる市場全体の動きからアウトパフォームを目指す戦略を取っています。

そして、国際情勢からマクロ経済、金融政策、歴史、社会のトレンドなどが引き起こす需給の変化を綿密に調査し、そこから価格の大きな上昇または下落を予想してポジションをとる「グローバルマクロ戦略」を採用。

また、新しい投資戦略やポートフォリオ運用を開発したこととしても有名です。

1990年代に、インフレ連動債、為替オーバーレイ、エマージング市場債、グローバル債、超長期債など、革新的な投資戦略を開発しました。

また投資を「アルファとベータを分離した先駆者」となり、「アルファオーバレイ」と呼ばれるヘッジファンド戦略を開発した。

1996年には、ポートフォリオ運用においてリスク・パリティ・アプローチ(戦略)の先駆者となりました。

1989年に最初に立ち上げたファンド、ピュア・アルファは、設立20年のうち損失を出したのはわずか4年間のみ。この間の年間平均収益率は11.5%だそうです。

同社の運用資産額は、1990年代半ばには50億ドルだったものが2003年までに380億ドルに増加。2000年6月には、その年およびそれ以前の5年間で最もパフォーマンスが良かったグローバル・ボンド・マネージャーに選出されました。

リスクパリティ・アプローチとは

ブリッジウォーターのポートフォリオは、安定運用を目指すように設計されています。

そのために、ポートフォリオの各資産のリスクを均等にするリスク・パリティ・アプローチという運用方法を開発しました。

これはポートフォリオに占める各資産の価格変動率の大きさに注目し、市場の動きに合わせて組み入れ比率を変更することで、各資産のリスクの割合が均等になるように資産を保有する運用手法です。一般的に、価格変動率の大きな株式の比率が低くなり、変動率の小さな債券の比率が高くなる。また、ゴールドなどの安全資産も組み入れられます。

しかし、リスクが上昇した時に株式などの資産の保有比率が下がるため、市場が反転した時に高いリターンを得ること難しいとされています。

レイ・ダリオとは

画像出所:Wikimedia

レイ・ダリオ氏は、運用資産ランキング1位のヘッジファンドの創業者であり、「ヘッジファンドの帝王」と呼ばれてます。米フォーブス社が発表する「ビリオネアズ 2020」で46位に位置する資産家です。また「世界のヘッジファンドマネージャー報酬ランキング」では第5位となる9億ドル(約900億円)を稼いだ事としても有名です。

ダリオ氏はニューヨークの出身で、新聞配達やゴルフのキャディーをして稼いだお金で12歳の時に始めて株に投資をしたそうです。

300ドルで買ったノースイースト航空は、数年後にデルタ航空と合併されたことによって株価が3倍になりました。その後も順調に資産を増やし、高校生の時には数千ドルを運用しているまでになったそうです。

ロングアイランド大学に入学し、金融を学び、ダリオ氏は1974年にハーバード・ビジネス・スクールで博士号を取得しており、現在もブリッジウォーターはハーバードのMBAホルダーが中心になって率いていると言われています。

アナリストとして就職すると、証券会社で主に商品先物を取り扱っていたものの、27歳でクビになってしまいました。その後は、アパートの一室でマクロ経済のレポート販売を行うブリッジウォーターを創業しました。

当初の業務内容は、事業法人に対して金融商品を用いた財務手法や商品開発を提案したり、マーケットの情報提供を行ったりしていました。合わせて、自己勘定の取引ポジションも持っていたようです。

分析が好評だったために、ダリオ氏のレポートを熟読していた世界銀行の職員から、資金を預かってくれないかと持ちかけられるということがあり、ファンドマネジャーとなりました。

2008年の金融危機や、欧州債務問題による株価暴落時では、市場の危機いち早くを予見したことで知られています。「現金はゴミだ」とも発言しており、新型コロナにより世界中が危機に見舞われた際には、「2020年が不況突入の年になるのか」という質問に対して「世界中の中央銀行は、坂道で量的緩和という缶蹴りをしている」と大規模な金融緩和を皮肉る発言をしました。

毎日の瞑想を習慣にしていらっしゃるなど、投資家というよりは、まるで哲学者のような人物像ですが、これはスティーブ・ジョブズ氏と共通する部分です。

そのためか、「投資界のスティーブ・ジョブズ」と呼ばれることもあるそうです。

急激な価格変動は嫌われる

「資産バランスを取る事が必要で、或る程度のゴールドを保有すべき。」

金投資を勧める一方で、「ビット・コインのような投機は避けよ。あまりにも価値の変動が激しいではないか!」と警告

ヘッジファンドブリッジ・ウォーターの投資手法

ダリオの投資手法は、過去に起こった出来事に対して市場がどのような反応を示したかを詳細に1億以上のデータ系列を分析。その期間も100年分をさかのぼり、普遍的法則を探り出すそうです。

これには、1982年8月にメキシコ債務危機の時にテレビに出演し自信たっぷりに株式市場の下落を予想しました。 しかし、相場は逆に動き自身の資産は無くなりました。そればかりか、8人いた従業員は全員解雇せざるをえなくなり、さらに父親から4000ドルの借金をしました。

この経験から、負けないためのポートフォリオ運用、気の遠くなるほどの調査分析を行っていると考えられます。

全天候型ポートフォリオ

資産価格の変動要因はインフレ、デフレ、経済成長、経済の衰退の4つに分類して、この各期間に適した資産に25%ずつ均等に投資する事で、最大利回りかつ最小リスクを目指す全天候型ポートフォリオ(オールシーズンズ戦略)を開発。1996年より同社のファンドの運営に欠かせない投資戦略と言われています。

そのポートフォリオを大まかに分けると以下の通り。

金融商品比率
米国長期債40%
株式30%
中期債15%
ゴールド7.5%
商品7.5%

このポートフォリオで運用することで、下落相場の際にはS&P500よりも安定した運用となるといいます。

S&P500A/S戦略
損失の出た回数18回10回
最大損失-43.30%-3.93%
平均損失-11.40%-1.63%
株価大暴落の7年
1937年-35.03%-9.00%
1941年-11.59%-1.69%
1973年-14.69%3.67%
1974年-26.47%-1.16%
2001年-11.89%-1.91%
2002年-22.10%7.87%
2008年-37%-3.93%
出典:アンソニー・ロビンズ著「世界のエリート投資家は何を考えているのか」

レイ・ダリオ氏のポートフォリオ

2021年1月時点でのレイ・ダリオ氏のポートフォリオを見ておきましょう。

ティッカー銘柄保有比率
SPYSPDR S&P500 ETF トラスト16.00%
GLDSPDRゴールドトラスト11.60%
VWOバンガード・FTSE・エマージング・マーケッツETF6.60%
BABAアリババ4.70%
IAUiシェアーズ ゴールド・トラスト3.40%
IVViシェアーズ・コアS&P500 ETF2.50%
WMTウォルマート2.30%
EEMiシェアーズ MSCI エマージング・マーケット ETF2.30%
PGプロクター&ギャンブル2.00%
IEMGiシェアーズ・コア MSCI エマージング・マーケット ETF2.00%
出所:https://finbox.com/ideas/ray-dalio

驚くべきことに、ETFとゴールドが大半を占めています。

株式はS&P500銘柄が中心ですが、新興国株のETFも10%以上保有しており、米国株が大半を占めるウォーレン・バフェット氏とは大きくことなるポートフォリオとなっていることが分かります。

「全天候型」と呼ばれるだけあり、どんな相場になっても安定運用を目指せるポートフォリオ設計といえます。

リスクオフ相場になればキャッシュを多くする株式投資家とは異なり、攻めと守りを併せ持つ資産運用方法といえそうですね。

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