ルネサンス・テクノロジー創業者、ジェームズ・シモンズとは

31年間で400万倍ものリターンを叩き出したヘッジファンドをご存知でしょうか?

それは、ウォーレン・バフェットでもジョージ・ソロスでもなく、元数学者であり40代まで投資に縁の無かったジェームズ・シモンズという人物が立ち上げたファンド「メダリオン・ファンド」です。

英紙フィナンシャル・タイムズには「最も賢い億万長者」と評されており、2008年には年収2500億円を稼ぎ長者番付1位となりました。

そんな元数学者のシモンズがいかにして成功を収めたのか、解説していきます。

ジェームズ・シモンズとは

出所:wikimedia

1938年に、シモンズは米国マサチューセッツにある靴工場の所有者の子供として生まれました。マサチューセッツ工科大学で数学を、その後カリフォルニア大学バークレイ校で文学を学びました。

ハーバード大学、マサチューセッツ工科大学の両校で数学教授に就いた時期もあり、数学者として新たな証明を発表したり、幾何学で最高の栄誉とされるオズワルド・ヴェブレン賞を受賞するなど、多くの実績を残しました。

また、米国防総省の国防分析研究所で暗号解読者として勤めるなどのエリート街道を歩みました。

【ファンドを立ち上げるまでのジェームズ・シモンズの経歴】

1958年マサチューセッツ工科大学で理学士号を取得
1961年カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得
1964年NSAと協力し暗号解読の仕事に従事
1964年~
1968年  
国防分析研究所(IDA)の通信研究部門の研究スタッフを務める。同時にマサチューセッツ工科大学とハーバード大学で数学の教鞭を執る
1968年~
1978年  
ストーニーブルック大学の教授になり、数学部門の委員長に任命
1973年IBMから暗号化関連の仕事を依頼される
1976年オズワルド・ヴェブレン幾何学賞を受賞

40歳の時に父親が大金を得ることになり、シモンズが資産運用をしてみないかと持ちかけたのがヘッジファンドを立ち上げたキッカケです。

最初の2年間は特に決まった運用モデルなどはなく、単純に運任せで運用していました。しかし、幸運にも大きな利益を得ることができました。

あるとき、価格変動に何かしらパターンがあり、数学的または統計的に予測できるのではないか、と考えるようになりました。従来の勘と経験による投資の判断を数学的なモデルで置き換え、自分に代わりコンピューターに取引をさせたいと考えました。

そして1970年代後半より、数学者などのさまざまな分野の学者を雇い、共同で予測モデルを作り始めました。そのひとりに、後にシモンズとメダリオン・ファンドを立ち上げることになるコール賞を受賞(米数学会の権威的な賞)したジェームズ・アックス氏がいました。

そしてヘンリー・ローファー氏が「金融市場が混乱した直後にどう動くかというパターン」を発見。1988年に、コンピューターが生成したシグナルに基づいて金融先物の運用を行うメダリオン・ファンドが始動しました。

その後、一度は成功を収めながらも失敗したため、研究期間に入りました。失敗の原因などを分析した結果、可能な限りの市場で素早く売買を行なう戦略を主として再出発。手数料控除後に56%という驚異のパフォーマンスをマークしました。

シモンズの功績は、ヘッジファンドに数学的なアプローチを取り入れ、コンピューター主導の取引の仕組みを創ったことでしょう。今でいう自動売買や超高速取引(HFT)のパイオニアともいえるかもしれません。

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シモンズが率いるヘッジファンド「ルネッサンステクノロジー」の旗艦ファンドであるメダリオンは、年間60%以上のリターンを記録。運用成績は最大で2008年に160%を叩き出しました。

2010年に引退したものの、同社のメダリオンファンドは現在オーナーと従業員の資産のみを運用。2011年には、ソロスを超えた男という評判を手にしました。

2015年には、ヘッジファンド・マネジャーとして業界1位となる約17億ドルを稼ぎました。これは、同年のスターバックスとコストコの利益の合計額よりも稼いだことになります。

なお、2016年の報酬の額で1位を分け合ったグリフィンもコンピューターでの取引を行っており、ヘッジファンドマネジャーのうち半数は、コンピューターシステムの使用者と言われています。

引退後のシモンズは、シモンズ財団を設立。数学の発展や自閉症研究などに20億ドルを寄付するなどの社会貢献を行っています。

2020年5月時点での彼の純資産は216億ドル(約2兆3000億円)と推定されており、米国で36番目の大富豪です。

ルネッサンス・テクノロジーズは経済学者のいない資産運用チーム

様々な数学者により導き出された運用手法に確信を得たシモンズは、さらに数学者の雇用を増やしました。そして、物理学者や天文学者などもチームに加えました。

なぜ天文学者がチームに必要なのでしょうか? たとえば、午前中の天気が良ければその国株価は上昇する傾向がある、などの天気や物理的な投資判断をするうえで非常に役立つデータ分析、検証ができるそうです。

しかし、一見必要そうば経済学者だけは雇いませんでした。それは、シモンズが追求したのが、数学的アプローチを中心としたカタチを見いだせるパズルとしての投資であり、価格を絶対とした極めてテクニカルな運用だからです。

人間の思い込みは正しい判断を鈍らせるとして、ファンダメンタルズ分析やアナリストの経験を一切運用に取り入れなかったのです。

当時は異色の存在でしたが、その後にアルゴリズムや超高速取引を駆使したヘッジファンドが多く誕生したことから、時代の最先端を走っていたといえます。

現在ルネッサンステクノロジーズでは、90人程度の数学、物理学の博士号を持つ人。そして、計算言語学の専門家にが働いており、金融市場のノイズを分析し取引に生かしているのだそうです。

ルネッサンス・テクノロジーズの運用及び分析手法

ルネッサンス・テクノロジーズの運用手法は公開されていませんが、市場のノイズやパターンが発生したときに短期的な取引を行うとされています。

ランダムに見える価格変動を数学者が分析し、統計的に有意な規則性やパターンが発生した際に、過去の結果に基づき取引を行います。

【ルネッサンス・テクノロジーズの運用方法とされるもの】

  • 短期売買が中心
  • 勝率は50%をわずかに上回る程度
  • ファンダメンタルズ分析は一切行わない
  • 割高・割安な際の価格の戻りを取引
  • 何千ものパターンや傾向を分析
  • 取引は自動売買で行う

メダリオンの主要な投資マネージャーのロバート・マーサーによると、勝率は約50.75%だったといいます。それにもかかわらず、高いパフォーマンスを出せたことには、何百万もの取引を行った結果とされています。そして、取引コストを最小限に抑える効果的な手段をもっていたことも、大きく影響したようです。

ルネッサンス・テクノロジーズの運用実績

ルネッサンスの運用パフォーマンスは、その巨大な運用資産からは異色の31年間で400万倍という天文学的な高いリターンを誇っています。これは1万円を預け入れて複利運用を行うと、31年後にはおよそ400億円になる計算となります。

シモンズの評伝である『The Man Who Solved the Market』によると、メダリオンの年率平均リターンは驚異の63.3%。運用開始後の最初の2年間が、最も低いリターンの年でも31.5%となっています。

メダリオンの真骨頂ともいえるのは、ITバブルの崩壊やとサブプライム・リーマンショックなどの金融危機の間でも影響を受けず、むしろ高いリターンを上げていることです。

これは、市場の混乱期は割高や割安が発生しやすいため、取引機会が増加し利益幅が拡大するためでしょう。

◆メダリオン・ファンドのパフォーマンス

1994年:71%
2008年:160%
1988年~2018年の年間平均リターンは63.3%
2011年~2018年の年間平均リターンは74%
1988年の設立以来で1000億ドル以上の利益を獲得

当然、メダリオン・ファンドは運用資金は爆発的に増加しています。

1988年の2000万ドルでしたが、1993年には3倍以上となるの6600万ドルに増加。その後は、急成長し2000年には24億ドルに成長。2010年には、そこから4倍以上となる100億ドルにまで成長しました。

現在、ファンドの総資産は100億ドルに固定されてるそうです。

2018年の年間収益では、47億ドルの収益を獲得。ヘッジファンド業界では、ブリッジウォーター・アソシエーツ(81億ドル)に次ぐ2番目の利益額を得ています。

ルネッサンス・テクノロジーズの成功報酬

これだけ高い収益をあげているルネッサンス・テクノロジーズは、世界で最も手数料が高いヘッジファンドということで有名です。

通常は運用資産額に対しての固定報酬(運用管理料)が1~2%(年間)。そして、成功報酬としてファンドマネージャーが20~30%を得ます。

しかし、ルネッサンスの場合は固定報酬が5%、成功報酬は44%にも上るのだそうです。

ジェームズ・シモンズ~まとめ

ウォーレン・バフェットやジョージ・ソロス、ジム・ロジャーズなどの著名投資家は、企業や中央銀行の金融政策など、いわゆるファンダメンタルズを分析し、大きな成功を獲得してきました。

それに加えて、世界一の投資家とされるウォーレンバフェットは、超長期投資を行っており、コカ・コーラなどは一生売却しないとも言われています。

それに対して、シモンズはファンダメンタルズは一切無視して価格のみに焦点を当てています。そして、少しでも利益が出る場面で短期売買を行うという対極に位置しています。

個人投資家には真似することは難しいかも知れませんが、数学的な知見を持つことで成功している投資家は非常に多いことが知られています。そういったアプローチが、投資で成功するために不可欠だと言えそうですね。

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