投資の素人を2週間で育成したトレーダー集団タートルズの取引ルール

1980年代、米国のカリスマトレーダー、リチャード・デニスが友人のウィリアム・エックハートと「トレーダーは育成できるか」という賭けをしました。

『再現性のある売買戦略とルールがあれば、誰でも利益を上げることができる』とデニスは考えたのです。一方で、エックハートはできないに賭けました。

新聞広告で大々的にトレーダー候補生を募集し、そのなかから精鋭メンバーを選別。彼らは、わずか2週間の研修プログラム期間に取引手法や、ポジションサイズ、リスク管理などトレードに必要なルールを学びました。

そして100万ドルの資金で実際に運用した結果、彼らは驚異的なパフォーマンスを挙げることに成功しました。つまり、賭けはデニス氏に軍配が上がったのです。これが、投資の世界では非常に有名な「タートルズ」の話です。

ちなみに、なぜタートルズと呼ぶかというと、アジア旅行で亀(タートル)の養殖を見た際に、「亀の養殖と同じ方法でトレーダーを育成できるかどうか?」というアイディアを思いついたからなのだそうです。

そんなタートルズの売買手法やリスク管理方法を知っておきましょう。

トレーダーは育成できるのか?

タートルズの物語は、シカゴ最強のトレーダー、リチャード・デニスが、数理論理学の専門家であるウィリアム・エックハートに「勝てるトレーダーを育成できるかどうか」という賭けを始めたところから動き始めます。

1983年、ふたりは新聞広告で大々的に候補生を募集しました。

実際には、次のような広告の文面だったそうです。

業務拡大につき人材募集

400ドルを2億ドルに増やした独自のトレーディング手法を教えます。
投資経験は不問!

かくして、1000人を超える応募者が殺到。最初に採用されたのは次のような13人が集まりました。

【候補生のプロフィール】

  • 有名RPGゲーム「ダンジョン & ドラゴンズ」の編集者
  • シカゴ大学の言語学博士号を持つ人物
  • 米国最大級の穀物企業カーギル社のトレーダー
  • トレーディング経験のある人物が数名
  • 会計士
  • ブラックジャックとバックギャモンのプロギャンブラー
  • 弁護士
  • 警備員
  • 投資未経験の若者

男女比:男性11名、女性2名
年齢層:大半が30代で、20代半ばが2名、19歳が1名

普通の人もいますが、弁護士や会計士、博士号を持つ人にギャンブラーなど、成功しそうな顔ぶれがそろっていたことが分かります。

なお、この募集は1984年にも行われ10人が選別されたそうです。

つまり、タートルズは23人いたことになります。

タートルズの研修プログラム

タートルズのトレーダーとして成功するための研修プログラムは、わずか2週間。2年目に至っては1週間しかなかったそうです。

その中で彼らが何を学んだのか紹介します。

まず、債券、通貨、トウモロコシ、原油などあらゆる市場で取引するために必要な知識を、教え込まれます。これがどういった内容なのかは分かっておりません。

そして、少額の口座でトレーディング実習が行われたそうです。そこで実績を上げた者のみ、100万ドルの運用をすることができる権利を掴み取ったのです。

その結果、トレーダー達の平均資産は1年で軽く25%以上も増加。誰でも優秀なトレーダーに育てることができるということが証明されたというわけです。

中には失敗に終わった人もいましたが、良い成績のメンバーと悪い成績のメンバーの違いは、知識ではなく感情や心理的要因だったそうです。

【成功しなかった人の特徴】

  • 実習で失敗を恐れた
  • 保守的なトレードスタイルを好んだ
  • 相場変動が激しく、リスクが高いと感じた
  • 限月まで数日しかない相場では収益を上げられないと思った

タートルズが取引していた市場は、商品先物取引も含まれていたそうですから、投資未経験の人にとってはハードルが高かったのかもしれません。

そんなタートルズの売買戦略はどういったものだったのでしょうか。

タートルズの売買戦略

一般的に知られているタートルズの売買手法は、ブレイクアウトを狙ったトレンドフォローだったといわれています。そして、常にストップロスを出しておき、リスク管理を徹底したそうです。

取引を行う市場は、S&P500やFX、コモディティなどの流動性の高い市場を選択し、分散投資を行ったそうです。

これは、大口注文でも市場を動かさずに取引できる先物取引市場を主戦場としていたことがその理由とありました。

現在と異なる点は、 1983年当時だったため、訓練生(タートルズ)は、手計算でエントリー価格や損切り価格・注文数量を算出し、注文は電話で行っていました。

タートルズのブレイクアウト・トレンドフォロー手法

  1. 過去20日間or55日間の最高値または最安値を更新時に順張りでエントリー
  2. 手仕舞いは、過去10期間の最安値または最高値を更新時に手仕舞い
  3. エントリー後に市場が逆行した場合、資金の2%の損失で損切りを行う
  4. 利益確定の指値は置かない

タートルズの取引市場

タートルズの取引市場はFX、コモディティ、債券、S&P500など株価指数です。

この市場での売買手法は、勝率は50%以下になることも多いそうです。ただし、勝率が低い代わりに勝つときの利益が大きくなるため、トータルではプラスとなります。

いわゆる、コツコツ負けてドカンと勝つという売買手法といえます。

この手法の特徴は、利益をとことん伸ばすことにあります。利益が乗った建玉を手仕舞う唯一の方法は、市場が逆行し損切り条件に合致した時のみなのです。

そのため、価格変動が激しい商品市場でのトレンド発生時には非常に大きな利益を出すことができると考えられます。

徹底した資金管理

タートルズの売買戦略のなかで押さえておきたい点が、徹底した資金管理です。

1日の最大損失を、1%とするほどリスクを限定していたそうです。

また、1つのポジションを大きく持たないようにするため、投資資金を10ユニットほどに分散し、それぞれの商品の売買に充てるなどの適度な分散を行っていたそうです。

【資金管理の例】

投資資金:1000万円
100万円ごとにユニットを作成

最大損失:それぞれの建玉の最大損失を10%に設定。1回の取引でポートフォリオの最大損失が1%となる

タートルズの売買戦略は、人間の感情による判断を排除し、システム化することで、誰でも再現できるようになっています。しかし、タートルズにもルールに従わなかったメンバーがおり、彼らのパフォーマンスは高くなかったようです。

投資において、感情を押さえてルールを守ることが重要だと分かります。

なお、タートルズの手法を逆手にとったタートルスープという手法もあります。これは、過去20日間の最安値、最高値を更新した時にタートルズのブレイクアウトと逆のポジションをとります。

タートルズの手法はが多く、勝率が高くないため、それをコツコツと狙うのがタートルスープです。タートルズの売買手法とは真逆の、コツコツ勝って負けを小さくする取引といえます。

タートルズの売買戦略まとめ

タートルズの売買戦略は、取引のルールが明確です。トレーダーの相場感や経験は必要がなく、誰が行っても同じタイミングでエントリーし、決済することができるシステム化された売買手法といえます。

万人が行えますが、多くのトレーダーが同じ行動をとるようになると、相場は変わってくることでしょう。

タートルズの手法では、エッジのある取引を続けることの大切さや資金管理の重要性、さらにルールに従い取引を行うことの大切さを学ぶことができます。

最新情報をチェックしよう!