投資家にとって、米国の大統領選は大きなイベントのひとつです。米国株式相場は、選挙戦や各政党の経済政策によってプラスに転じるケースがあります。
また、民主党・共和党のどちらの政党が選挙に勝利したのかによって、任期中の相場の騰落率にも大きな差が生じているのです。
この記事では大統領選挙や政権を取った政党、そして政策内容によって株式市場がどのように変動するのか、S&P500の価格推移から検証・解説してゆきます。
1.米国大統領選挙や政権で大きく株価が変動
米国大統領選挙は毎回4年ごと、11月に実施されます。その結果により米国の経済政策の方針が大きく変わるケースもあるため、米国だけではなく他の国々にとっても重要なイベントです。
はじめに、米国大統領選の結果が株式市場にどのような影響を与えているのかを確認しましょう。
2020年11月3日に実施された大統領選では、民主党のジョー・バイデン氏の勝利という結果となりました。その後の米国株式市場の動きを見ると、下記の通りです。
大統領選挙とS&P500の推移
11月の一般有権者の投票・開票の開始から翌年1月20日の大統領就任式にかけて、株式市場が上昇していることが分かります。それ以降の動きを見ても株価は上がり続けているため、大統領選は株式市場にプラスの影響を与えやすいと考えられるでしょう。
実際に株式投資では「大統領選は株高になる」というアノマリーもあります。
投資家にとって、このアノマリーは事実なのか気になるところです。
そこで、過去6回における大統領選時の株式市場の動きを確認しました。
任期 | 大統領 | 選挙時の騰落率 |
2021年~ | ジョー・バイデン | 13.00% |
2017-2021年 | ドナルド・トランプ | 9.50% |
2009-2017年 | バラク・オバマ | 3.60% |
2001-2009年 | ジョージ・W・ブッシュ | -4.20% |
1993-2001年 | ビル・クリントン | 2.90% |
1989-1993年 | ジョージ・H・W・ブッシュ | -3.20% |
※騰落率は選挙の11月の始値と、就任式が行われる翌年1月の終値をもとに算出
過去6回のうち2回は大統領選を通して株価が下がっていますが、他の4回は上がっています。2008年にはリーマン・ショックという未曾有の金融危機があったため、仕方ないといえるかもしれません。このことから、たしかに大統領選は株高になる可能性は高めであると判断できます。
2.民主党と共和党での株価推移、統計データなど
大統領選を通して株価が上がりやすい傾向にあることは分かりましたが、民主党・共和党とで株価の推移に違いがあるのでしょうか。戦後から現在までの大統領就任期間中に、株式市場がどれだけ変動したのかを確認します。
任期 | 大統領 | 所属政党 | 任期終了後の騰落率 |
2017-2021年 | ドナルド・トランプ | 共和党 | 62.60% |
2009-2017年 | バラク・オバマ | 民主党 | 175.40% |
2001-2009年 | ジョージ・W・ブッシュ | 共和党 | -39.40% |
1993-2001年 | ビル・クリントン | 民主党 | 210.90% |
1989-1993年 | ジョージ・H・W・ブッシュ | 共和党 | 47.60% |
1981-1989年 | ロナルド・レーガン | 共和党 | 130% |
1977-1981年 | ジミー・カーター | 民主党 | 20.30% |
1974-1977年 | ジェラルド・フォード | 共和党 | -7.30% |
1969-1973年 | リチャード・ニクソン | 共和党 | 12.30% |
1965-1969年 | リンドン・ジョンソン | 民主党 | 56.30% |
1961-1963年 | ジョン・F・ケネディ | 民主党 | 7% |
1953-1961年 | ドワイト・アイゼンハワー | 共和党 | 133.20% |
※大統領に就任する年の1月終値と任期終了する年の1月終値をもとに算出
ジェラルド・フォード氏とジョージ・W・ブッシュ氏を除けば、民主党・共和党のどちらでも任期期間中に株価は上昇しています。特に二期続けて就任している場合、騰落率が+100%を超えている傾向にあるようです。
次に民主党・共和党の騰落率の平均値を出したところ、次のような結果となりました。
所属政党 | 大統領 | 騰落率 | 平均騰落率 |
民主党 | バラク・オバマ | 175.40% | 93.98% |
ビル・クリントン | 210.90% | ||
ジミー・カーター | 20.30% | ||
リンドン・ジョンソン | 56.30% | ||
ジョン・F・ケネディ | 7% | ||
共和党 | ドナルド・トランプ | 62.60% | 48.40% |
ジョージ・W・ブッシュ | -39.40% | ||
ジョージ・H・W・ブッシュ | 47.60% | ||
ロナルド・レーガン | 130% | ||
ジェラルド・フォード | -7.30% | ||
リチャード・ニクソン | 12.30% | ||
ドワイト・アイゼンハワー | 133.20% |
このように共和党の場合は大統領の就任期間中に株価が約1.5倍、民主党の場合は約2倍になっていると分かります。
3.大統領選挙の勝利政党の翌年の株価騰落率を比較
民主党・共和党いずれも任期終了時には株価が上昇していると解説しましたが、それぞれの政党が勝利したその翌年の騰落率に差は生じるのでしょうか。
就任から1年間の騰落率を、各大統領ごとに見てみます。
任期 | 大統領 | 所属政党 | 就任1年後の騰落率 |
2017-2021年 | ドナルド・トランプ | 共和党 | 23.90% |
2009-2017年 | バラク・オバマ | 民主党 | 29.30% |
2001-2009年 | ジョージ・W・ブッシュ | 共和党 | -17.30% |
1993-2001年 | ビル・クリントン | 民主党 | 9.60% |
1989-1993年 | ジョージ・H・W・ブッシュ | 共和党 | 10.60% |
1981-1989年 | ロナルド・レーガン | 共和党 | -7% |
1977-1981年 | ジミー・カーター | 民主党 | -17.30% |
1974-1977年 | ジェラルド・フォード | 共和党 | -33.60% |
1969-1973年 | リチャード・ニクソン | 共和党 | -17.70% |
1965-1969年 | リンドン・ジョンソン | 民主党 | 6.10% |
1961-1963年 | ジョン・F・ケネディ | 民主党 | 11% |
1953-1961年 | ドワイト・アイゼンハワー | 共和党 | 0.75% |
民主党・共和党ともに就任から1年後に、騰落率0%を下回るケースがあります。
過去12回のうち、上昇率は58.33%、平均騰落率はなんと-13.75%とマイナスでした。
トランプ氏・オバマ氏のように1年後にプラス20%を超えているケースもあるため、民主党・共和党のどちらが勝ったとしても就任1年後の段階では大きな差は見られませんでした。
4.過去の歴史的な大統領や党の経済政策などで相場が大きく動いた例
過去に米国株式市場が動くきっかけとなったのは、1998年8月に起きたLTCMショック2001年9月の同時多発テロ、そして2008年9月のリーマンショックなどが挙げられます。
- LTCMショックとは?大手ヘッジファンドはなぜ破綻に追い込まれてしまったのかを解説
- アメリカ同時多発テロは金融市場にどのような影響を与えたのか?株価下落の理由や経済政策も合わせて解説
- リーマン・ショックはなぜ起きた?発生の原因から世界の株価への影響
他にも、2020年以降には新型コロナウイルスの影響により、経済が一時的に大きく低迷する様子もありました。
反対にこれまでの経済政策によって、株式市場が大きく上昇した事例もあります。ここでは過去の大統領が実施した政策で株高となったケースを3つご紹介しましょう。
①貿易協定
他国との貿易協定により、相場が動いた事例もあります。
例えば2003年3月にジョージ・W・ブッシュ氏の任期中、米国とシンガポールとの間で自由貿易協定が制定されました。その月から年末にかけて、米国の株式価格は32.3%上昇。
加えて2006年7月にもバーレーンとの間でFTAが締結されており、半年かけて株価が13.1%上昇しています。
このように貿易の自由化によって相場が好転するケースも見られます。株価の分析をする際は、現政権が他国とどのような政策を結んでいくのかに注目する必要があるでしょう。
②税制改革
税率の引き下げは一般消費者の税負担を軽減させ、消費拡大・景気回復を見込めます。過去に実施された税制改革でも、株価上昇している事例がありました。
例えば1986年10月にロナルド・レーガン氏の任期中に税制改革法が成立し、法人税率や個人所得の最高税率引き下げなどが実施されています。これにより相場は1986年10月から翌年4月にかけて28.6%上昇しました。
税負担の軽減は株価に影響を与える要因のひとつとなるため、今後の政権が増税・減税のどちらに向かう予定なのかを投資の主な判断材料とすることができます。
③金融緩和
金利の引き下げによって市場に流れるお金の量が増えれば、株式市場にプラスの影響を与えやすくなります。実際に2020年3月、米連邦準備理事会(FRB)は新型コロナウイルス対策として実質的なゼロ金利政策を打ち出し、7000億ドル規模の量的緩和政策を開始。途中で長期国債の利上げもありましたが、約1年かけて株価は128.7%上昇しました。
一般的に金利が引き下げられれば企業は銀行からの融資を受けやすくなり、事業拡大・株価上昇の一因となりますので、今後の金利政策の方向をチェックするのも大切になります。
過去の米国大統領選挙から見る米国株価まとめ
米国大統領選は毎回、株式市場が活発化する要因となることが分かりました。
財政出動の民主党、ドル高の共和党といわれることが一般的ですが、統計的には経済対策に力を入れる民主党の方が株価の伸び率は高くなっています。今後も、この歴史は今後も繰り返される可能性が高そうです。
歴史的にを見ると、相場が動くのは貿易協定の締結や金融緩和、税制改革などとなっています。
相場が大きく動いたり、これまでのトレンドを変える可能性のある米国大統領選挙。大統領選挙の際には、これらの統計データを参考にしてみてはいかがでしょうか。
米国大統領が米国株価の推移を決定付けた例
2016年11月8日、共和党の大統領候補であるドナルド・トランプ氏が選挙に勝利。45代米国大統領に就任する見通しとなりました。米大統領選挙の最中、ヒラリー氏が優勢と伝わると上昇していた米国株式相場はトランプ氏が有利になった途端に急落。しかし、勝利演説とともに相場は大きく上昇。そのまま4年間の大きな上昇トレンドを描くこととなりました。
トランプ相場と呼ばれる米国株式相場の大幅な上昇の背景には、何があったのでしょうか。トランプ大統領の経済政策を紐解きながら、解説していきます。