オプション取引がハイテク株の値動きに大きく影響

NASDAQ指数とアップル、アマゾン、グーグルの株価とボラティリティの奇妙な関係

NASDAQ100指数とCBOEが発表しているVXNボラティリティ指数の関係を調べてみました。通常VIXを代表するボラティリティー・インデクスは相場の下落時に、上昇する傾向があります。グラフ1,2を見れば、その傾向が分かると思います。

しかし、この数か月間のNASDAQのハイテク銘柄では、ボラティリティー・インデクスが上昇しながら、株価が上がるという傾向が見て取れました。明らかに何か違ったことが起こっていたということです。

10月中旬、NASDAQ指数やアップルやアマゾン、グーグルなどのハイテク株の値動きはダラダラと下げていました。通常であれば、ボラティリティー・インデクスは上昇するはずですが、なぜかボラティリティー・インデクスは下げています。アメリカのFAANGを代表する大型個別株のバイナリー・オプションをする際に注意点をまとめてみました。

グラフ1:S&P500株価指数とVIXインデクス

出所:Barchart.comに矢印を付け加えました。青い→は、株価指数の下落局面を、赤い→は、ボラティリティー・インデクスの上昇局面を示しています。下段のチャートは30日のヒストリカル・ボラティリティーです。

明らかに、株価指数が下落しているところで、ボラティリティー・インデクスは急上昇しています

グラフ2:ダウ工業株30種株価指数とVXDインデクス

出所:Barchart.comより。矢印を付け加えました。青い→は、株価指数の下落局面を、赤い→は、ボラティリティー・インデクスの上昇局面を示しています。下段のチャートは30日のヒストリカル・ボラティリティーです。

明らかに、株価指数が下落しているところで、ボラティリティー・インデクスは急上昇しています。通常、株式市場とボラティリティ・インデクスの関係は、S&P500やダウ工業株指数のような動きをします。(株式市場が下落すると、ボラティリティー・インデクスは急上昇、株式市場の上昇局面では、ボラティリティー・インデクスが下落していく)

しかし、最近のハイテク銘柄やNASDAQ指数に関しては、全く違った動きになっています。株価の上昇に合わせて、ボラティリティー・インデクスは上昇して、株価が下落している時には、ボラティリティー・インデクスが下落しています。

NASDAQ100指数(NDX)とVXNインデックスのチャート

(6か月間:~10月26日、日足)

出所:Barchart.comより。矢印を付け加えました。青い→は、株価指数の上昇(下落)局面を、赤い→は、ボラティリティー・インデクスの上昇(下落)局面を示しています。下段のチャートは30日のヒストリカル・ボラティリティーです。

あれっ?点線で示したところは、通常と逆の動きをしています。

アップル株(AAPL)とVXAPLインデックスのチャート

(6か月間:~10月26日、日足)

出所:Barchart.comより。矢印を付け加えました。青い→は、株価指数の上昇(下落)局面を、赤い→は、ボラティリティー・インデクスの上昇(下落)局面を示しています。下段のチャートは30日のヒストリカル・ボラティリティーです。

あれっ?点線で示したところは、通常と逆の動きをしています。

グーグル株(GOOGL)とVXGOGインデックスのチャート

(6か月間:~10月26日、日足)

出所:Barchart.comより。矢印を付け加えました。青い→は、株価指数の上昇(下落)局面を、赤い→は、ボラティリティー・インデクスの上昇(下落)局面を示しています。下段のチャートは30日のヒストリカル・ボラティリティーです。

あれっ?点線で示したところは、通常と逆の動きをしています。

アマゾン株(AMZN)とVXAZNインデックスのチャート

(6か月間:~10月26日、日足)

出所:Barchart.comより。矢印を付け加えました。青い→は、株価指数の上昇局面を、赤い→は、ボラティリティー・インデクスの上昇局面を示しています。

あれっ?点線で示したところは、通常と逆の動きをしています。

個別銘柄の方が顕著ですが、8月末には、ボラティリティー・インデクスが上昇してから、指数株価は上昇し、その後9月1日以降ボラティリティー・インデクスとともに下がりました。8月以降、NASDAQのクジラと呼ばれる大口投資家や個人投資家のオプション取引が盛んになっており、ボラティリティー・インデクスの動きがこれまでとは異なってきています。ある意味説明がつかなくなっています。9月初旬のFTなどの報道によれば、ソフトバンク(SBG)は、コール・スプレッドというオプション取引を盛んに行っていたとのことです。

コール・スプレッド取引は、相場が上昇すると想定するものの、必ず大きく上昇するとも言い切れない場合に有効なストラテジーです。予想の範囲を超えて上昇しても利益は限定されますが、下落時の損失も限定されるオプション取引戦略です。通常は同限月(同じエキスパイア日)で、権利行使価格が高いコールの売りと権利行使価格が安いコールの買いを組み合わせて保有する戦略です。

オプション取引は、取引されている価格近辺の流動性が高いので、その多くは現在の価格に近い行使価格のコールを買って、5%~10%高い行使価格のコール・オプションを売ることが多いです。行使価格が現在価格に近いオプション価格(プレミアム)は高く、離れた行使価格のオプションほどオプション価格(プレミアム)が低くなって、組み合わせたオプションのコストが上がるからです。ただし、あまりにインザマネー(コールの場合、行使価格が原資産価格より低い行使価格の取引)の取引は多く行われていません。

ブル・コール・スプレッドのポジションを下に図示しました。

取引例

原資産価格:10,000   

コール・オプションの買い:ATM(ストライク:行使価格):10,000 、オプション価格(プレミアム):500 払う

コール・オプションの売り:10%OTM(ストライク:行使価格):11,000 、オプション価格(プレミアム):200 もらう

オプション価格:300(=500-200) 払う

収益:10,300以上になれば、収益発生。11,000以上になれば、収益は700で高止まり。

損失:10,300以下であれば、損失発生。10,000以下になっても、損失は300ですむ。

報道によれば、SBGはアップル、マイクロソフト、グーグル、アマゾンなどの個別株でこのような取引を行ったと言われています。SBG以外にも、アメリカの個人投資家は、値がさハイテク銘柄で同様の戦略であったり、バイナリー・オプションを使った取引が盛んにおこなわれているようです。取引コストが安く、レバレッジもかけやすいことで。個人投資家には人気の取引となっているようです。

10月中旬以降はNASDAQ、アップルとも下落したのにもかかわらず、ボラティリティー・インデクスが下がっています。この場合は、オプションを売却したとみた方がいいでしょう。それまでやってきた反対のポジション(例:ベア・コールスプレッド)をとって、オプション取引全体のポジションをニュートラルにしたのかもしれません。どちらにしろ、オプションの売却によって、インプライド・ボラティリティが下がったということで、ボラティリティー・インデクスが下がったということです。

因みに、9月のNASDAQ大幅下落は、大口の投資家(その他投資家分類:事業法人?クジラ?)がNASDAQ先物で、大量のショート・ポジションを作ったことも大きな要因の一つでした。10月6日から10月13日の間に、NASDAQ100指数先物で大きくショート・ポジションを取っていたその他投資家はショート・ポジションをすべて買い戻したようです。

グラフ:NASDAQ先物での投資家別ポジション報告(CFTC)

8月に取ったコール・スプレッドのポジション(11月がエキスパイア)も一緒に外した可能性もあります。しかし、アップル株のオプション市場の先週の動きを見る限り、オプションのオープン・インタレストはあまり変化が無いようです(下記リンク参照)。

https://www.nasdaq.com/market-activity/stocks/aapl/option-chain

9月に噂になったコール・スプレッドは11月20日エキスパイアのコール・オプションでした。ストライクは、$115、$120、$125でオープンインタレスト(OI)が大きいままです。12月18日エキスパイアのコール・オプションでは、$115、$125、$130でOIが大きくなっています。12月エキスパイアのコール・オプションのOIが増加してきています。

株価指数や株価が下がっているにもかかわらず、ボラティリティー・インデクスは下がっています。ひょっとすると、クジラのような大口投資家は、先物を買い戻して新たに12月エキスパイアのコール・スプレッドの逆(ベア・コール・スプッレッド)を始めたのかもしれません。オプションを売っていないとボラティリティーは下がらないはずです。

CBOEの算出するボラティリティー・インデクスは、オプション市場のプレミアム(オプション価格)から算出したインプライド・ボラティリティから計算しています。参考までに各チャートにはヒストリカル・ボラティリティ(30日間)も添付してあります。総合インデックスと違い、個別銘柄で顕著ですが、ヒストリカル・ボラティリティを全く反映していません。最近、流行りのハイテク銘柄を取引するときは、ボラティリティー・インデックスの動きも見極める必要がありそうです。CBOEはいくつかの個別銘柄のボラティリティー・インデクスを公表しています。レポートの最後に、代表的なボラティリティー・インデクスをまとめています。

短期投資スタイルと見極めのポイント

株価の上昇局面では:

株価の上昇とともにボラティリティー・インデクスが上昇している場合は、大口のオプションの買いが入っているはずです。ディーラーによるオプション取引のガンマヘッジが入ってくるので、株価は上昇しやすく、買いでついていく。または、バイナリー・オプションを買う。その時、直近の限月のどの価格のオプションのOIが積みあがっているのか確認する。通常は5%~10%高い価格のところのストライク価格のOIが大きくなっているはずです。そこが短期的な利食いポイントになります。どの行使価格のOIが高いかは非常に大切なポイントです。ターゲットと利用してそこでは利食いましょう。そこを超えてさらに株価とボラティリティー・インデクスが上昇していれば、大口投資家がさらに同じ投資戦略を継続している可能性があるので、同じ戦略でついていく。ただし、深追いは禁物です。

株価の下落局面では:

上昇してきた株価が下げ始めた時にも、ボラティリティー・インデクスを見てみましょう。ボラティリティー・インデクスが同様に下がり始めていれば、大口のオプション・プレイヤーはオプションのポジションを閉じ始めている可能性があります。その時は、売りから入るといいでしょう。または、ベア型のバイナリー・オプションを購入する。

株価が下落した時、ボラティリティー・インデクスが急上昇したときは、普通の相場です。その時は、調整が終わった後はまた買いが入っている可能性があるので、ちょっとずつ買いをいれていくことをお勧めします。この時、現物を買うよりもバイナリー・オプションを買った方がコストを少なく、損失したとしても損失は限定されるので、投資効率は上がります。

その他大型ハイテク個別銘柄のオプション取引状況

因みに、他の大型ハイテク銘柄では以下の通りのオプションのOI積み上がり状況です。(2020年10月28日時点)

  • マイクロソフト(MSFT)でOIが大きいが、11月20日エキスパイアで、$220、$240です。12月18日エキスパイアで、$220、$240です(12月はそれほど大きくない)。
  • グーグル(GOOG)でOIが大きいのは、11月20日エキスパイアで、$1550、$1600、$1620、$1640です。12月18日エキスパイアでは、$1500、$1640です。
  • アマゾン(AMZN)でOIが大きいのは、11月20日エキスパイアで、$3200、$3300、$3500です。12月はそれほど積みあがってはいないようです。
  • フェイスブック(FB)でOIが大きいのは、11月20日エキスパイアで、$279、$295です。12月18日エキスパイアで、$280、$290、$310です。1月15日エキスパイアで、$265、$280、$300、$315です。
  • セールス・フォース(CRM)でOIが大きいのは、11月20日エキスパイアで、$230、$250、$260、$280です。

なんとも不思議なマーケットになってきました。クジラが先物やオプション市場でのポジションをスクエア―にしていたのが10月になってからの値動きとして説明できるのかもしれません。CBOEが発表しているNASDAQや個別銘柄のボラティリティー・インデクスは引き続き見ていく必要がありそうです。

VIXインデックスとは?

CBOEボラティリティ指数(CBOE Volatility Index:VIX)。シカゴ・オプション取引所(CBOE)が、S&P 500を対象とするオプション取引の満期30日のインプライド・ボラティリティを元に算出し、1993年より公表しているボラティリティ指数。

VIX指数は今後30日間のS&P 500の予想変動範囲を表現している。ただし現実にはS&P 500が下落する場合はVIXは上昇する傾向があり、VIXとS&P 500のパフォーマンスは負の相関関係にある。その統計的傾向から俗に恐怖指数とも呼ばれる。

VXNインデックスとは?

CBOE NASDAQ-100 Volatility Index (VXN)。シカゴ・オプション取引所(CBOE)が算出・公表する。米国を代表する株価指数の一つであるナスダック100指数(NASDAQ-100)のオプション取引価格から算出される指数で、米国の投資家心理や株式市場の不確実性を反映するように設計されている。一般的に数値が高いほど投資家が相場の先行きに不透明感を持っているとされる。

VXAPLインデックスとは?

CBOE Apple Volatility Index (VXAPL、[VXAP])。シカゴ・オプション取引所(CBOE)が算出・公表する。米国を代表する株価であるアップル(AAPL)のオプション取引価格から算出される指数です。

VXAZNインデックスとは?

CBOE Amazon Volatility Index (VXAZN)。シカゴ・オプション取引所(CBOE)が算出・公表する。米国を代表する株価であるアマゾン(AMZN)のオプション取引価格から算出される指数です。

CBOEでは、様々なボラティリティー・インデクスを発表しています。テーブルに代表的なインデクスをまとめてみました。

主要ボラティリティー・インデクス(CBOE)

Volatility Index対象ティッカーシンボル
CBOE Volatility Index株価指数VIX
CBOE NASDAQ Volatility Index株価指数VXN
CBOE DJIA Volatility Index株価指数VXD
CBOE Russell 2000 Volatility Index株価指数RVX
CBOE SP500 9-daysVolatility Index株価指数VIX9D
CBOE S&P500 3-monthVolatility Index株価指数VIX3M
CBOE S&P500 6-month Volatility Index株価指数VIX6M
CBOE S&P500 1-year Volatility Index株価指数VIX1Y
CBOE Crude Oil ETF Volatility Index原油・ETFOVX
CBOE Gold ETF Volatility Index金・ETFGVZ
CBOE Silver ETF Volatility Index銀・ETFVXSLV
CBOE EUROCurrency ETF Volatility Index通貨・ETFEVZ
CBOE Equity VIX on Amazon個別株式VXAZN
CBOE Equity VIX on Apple個別株式VXAPL
CBOE Equity VIX on Goldman Sachs個別株式VXGS
CBOE Equity VIX on Google個別株式VXGOG
CBOE Equity VIX on IBM個別株式VXIBM
出所:CBOEのホームページからFuture_Reserchが作成

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