過去の原油価格の大暴落(逆オイルショック)の要因と株式相場への影響

経済の血液ともいえる原油。その価格変動は、経済に大きな影響を与えます。

もちろん株価にも密接な関係にあり、原油動向を無視して株式投資をすることはリスクといえます。

今回は、2010年以降に起こった2回の原油の暴落に関して、その要因と株式市場へのインパクトを解説します。

シェール革命が原油相場を暴落へ

2014年末から2016年にかけて、原油価格を大きく下落させた主な要因として挙げられるのが「シェール革命」です。

【原油価格の下落の要因】

  • シェール革命による原油の供給増加
  • OPECの減産見送り
  • 中国の成長の鈍化

◆WIT原油先物週足チャート

価格変動:110ドル → 26ドル(-84ドル) 
騰落率:マイナス87%

シェール革命による原油の供給増加

地下2,000メートルより深くにあるシェール層にある原油やガスの掘削が、2006年以降に技術開発が進み、本格的な生産につなげられるようになりました。

米国で生産されるシェールオイルの生産量の伸びはすさまじく、2008年の約500万バレル/日から2014年には約800万バレル/日に拡大。これまでは輸入していた原油を自給が可能になったのです。

その結果、米国は世界一の産油国となるほどに世界のエネルギー事情は大きな変化が起きました。

OPECの減産見送り

米国が石油を自給自足できてしまうと、困るのはOPEC(石油輸出国機構)の国々です。

石油が売れないばかりか、需要に対して供給が増加することで価格は徐々に下落してしまいます。

しかし、加盟国の13か国は自国が損をしたくないために減産の話がまとまりませんでした。主要国であるサウジアラビアが減産を拒絶したことで、石油の供給過剰状態が偏在化。原油価格は急落に追い込まれることとなりました。

この背景には、シェールオイルが増産され続ける中で、価格を安定させてしまうとますます米国が有利になります。そのため、一度価格を下落させることにより、OPEC各国よりも生産価格ラインが高いシェール企業を苦難に追い込むための思惑があったのではないかと言われています。

その結果、2014年夏には1バレル100ドル以上もあった原油価格は、2016年2月には26ドルにまで大幅に下落。その後持ち直したものの、50ドル程度がやっとという状況になりました

この原油価格の暴落で、アメリカのシェール企業は黒字から赤字に転落。OPECの思惑通り、中小企業は破たんに追い込まれることになりました。

2016年1月から4月中旬までの北米エネルギー企業の倒産は前年同期比3倍の21社で、その大半がシェール関連企業だったとされています。

さらには、サウジアラビアとイラン情勢が緊迫も加わりました。従来は、産油国の地政学リスクは供給途絶不安につながり原油価格は急騰することがセオリーでした。しかし、米国が主要産油国となったことから、原油価格は下落に転じることとなりました。

中国の成長の鈍化

このころ、中国経済への先行き不安がさまざまな資産価格の重しとなっていました。

銀行融資以外のルートで資金を提供する信用仲介機能であるシャドーバンキングへの不安や、供給過多となった不動産、さらに理財商品と呼ばれる高利回りの金融商品が焦げ付いてきたことから、上昇を続けていた中国の金融市場にブレーキが掛かりました。

その結果、2015年6月に株価は大暴落。ひと月の間に上海証券取引所のA株は株式時価総額の3分の1を失うこととなりました。

学生までもが高いレバレッジを掛けて株式投資を行っていたことで、投資家が被った損失は元本割れが多発するなど酷い有様だったようです。

世界の経済規模で第二位の中国がにブレーキが掛かるとあって、株式市場はもちろん原油や銅などの商品相場も大きく下落しました。

新型コロナウイルス

2020年2月ごろから顕在化し始めた新型コロナウイルスは、世界経済の停滞を引き起こしました。経済活動が鈍化すると、世界的な原油の消費量が減少。需要が減るため価格が下落するなか、OPECプラスで減産協議が難航したことから、価格は急落しました。

◆WIT原油先物日足チャート

価格変動:60ドル → -40.32ドル(-100ドル)
騰落率:マイナス148% 

新型コロナウイルスの世界的蔓延による経済停滞に対する協議として、3月6日に石油輸出国機構と非加盟産油国で構成するOPECプラスでサウジアラビアが日量150万バレルの追加減産を提案。これをロシアが拒否したために交渉が決裂しました。そこへ、サウジアラビアは自主的な減産を取りやめ増産に転じたため、コロナショック前は50ドル台で推移していた原油価格はさらに下落。

消費が滞る原油に対して生産は通常通りされるため、備蓄するための石油タンクやタンカーが次々と限界を迎えていきました。

そんななか、4月20日日中に20ドル前後で推移していたWTIの5月物原油先物価格は、夜間になると10ドルを割り込みました。直後に下落が加速し、価格は1バレル0ドル以下の水準に突入。わずか4時間程度でマイナス40.32ドルまで暴落することとなりました。原油価格がマイナスになるのは史上初。その日の清算値はマイナス37.63ドルで引けました。

原油価格の暴落に伴い世界中の株式市場は混乱。4月20日のNYダウは前日比マイナス592ドルとなるほど大きく値を下げました。

さらに、翌日4月21日にも、6月物原油先物価格は下落。6.50ドルまで値を落とし、再びた株式市場を続落させました。

原油先物のマイナス価格とは

ここで知っておきたいことは、先物取引であったためにマイナス価格が存在したということです。

先物取引は、期限までポジションを保有すれば現物の受け渡しが行われます。価格がマイナスということは、原油の売り手が買い手に対し、代金を支払った上で原油を引き渡すことを意味しています。商品代を支払って商品も渡すということは有り得ないといえますが、この時に原油の貯蔵施設がひっ迫していたため、原油を受け渡されても困る投資家が多数現れることとなりました。

特にWTI原油は、オクラホマ州クッシングという内陸部を受け渡し地点なっており、保管能力の低さがネックとされていました。

通常であれば下落した原油先物を買い取って現物で受け取ろうとする製油所が現れるはずです。しかし、コロナ危機で世界的に原油在庫が急増したために、買い手不在のマーケットとなってしまったのです。

その結果、貯蔵施設を手当てできない投資家からの売り注文が殺到。買い手のいない原油先物価格マイナス圏に沈むこととなったのです。

金融商品の特性を理解し、誰もが衝撃を受けた「マイナス価格」というまさかのテールリスクを知っておく必要があった代表的な相場の例となりました。

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