2016年11月8日、共和党の大統領候補であるドナルド・トランプ氏が選挙に勝利。45代米国大統領に就任する見通しとなりました。
米大統領選挙の最中、ヒラリー氏が優勢と伝わると上昇していた米国株式相場はトランプ氏が有利になった途端に急落。しかし、勝利演説とともに相場は大きく上昇。そのまま4年間の大きな上昇トレンドを描くこととなりました。
トランプ相場と呼ばれる米国株式相場の大幅な上昇の背景には、何があったのでしょうか。
トランプ大統領の経済政策を紐解きながら、解説していきます。
トランプ大統領の米国株式相場推移の振り返り
トランプ大統領の勝利が決まった日から、4年後の大統領選挙の日まで、主要な米国株価指数の騰落率は以下の通りです。
▼2016年の大統領選挙以降の4年間の株価指数のデータ
指数 | 2016/11/8 | 2020/11/3 | 騰落幅 | 騰落率 |
NYダウ | 18392 | 27503 | 9111 | 49.54% |
S&P500 | 2100.59 | 3369.02 | 1268.43 | 60.38% |
ナスダック | 4766.48 | 11777.02 | 7010.54 | 147.08% |
トランプ大統領の誕生が決まってから、NYダウは年間平均10%以上、S&p500は約13%。ナスダックにいたっては約30%の上昇となっています。これは、リーマン・ショック直後に当選が決まったオバマ大統領の平均上昇率を超えるほどとなっています。
▼2008年の大統領選挙以降の8年間の株価指数のデータ
指数 | 2008/11/5 | 2016/11/7 | 騰落幅 | 騰落率 |
NYダウ | 9616.6 | 18259.6 | 8643 | 89.88% |
S&P501 | 1001.84 | 2131.52 | 1129.68 | 112.76% |
ナスダック | 1362.87 | 4773.73 | 3410.86 | 250.27% |
世界的金融危機からのリバウンドと、3回の大規模な金融緩和による相場の押上げよりも高いパフォーマンスを発揮したのです。
▼米国の政権とNYダウの推移
株価の上昇だけを見ると、トランプ大統領は素晴らしい実績を出したといえます。
トランプ大統領が掲げていた経済対策
トランプ大統領のスローガンは、「MAKE AMERICA GRATE AGAIN」でした。
アメリカファーストというスローガンを掲げ、古き良きアメリカを取り戻すと演説して回っていたのです。
主な経済政策としては、大規模減税とインフラ投資を打ち出しました。それに加えて、オールドエコノミーへの支援や海外に出て行った企業の回帰。そして保護的貿易政策をに舵を切るために、TTP(環太平洋経済連携協定)から永久に離脱する旨を表明しました。
【3%の経済成長率を掲げたトランプ大統領の経済対策】
- 20%もの大幅法人減税
- 1兆ドル規模の大規模なインフラ投資の拡大
- オールドエコノミーの復活
- 米国へ資金の回帰
1.大幅減税
トランプ大統領は、法人税を35%から15%まで引き下げる公約を掲げていました。これは、1986年のレーガン政権下で46%から34%に引き下げた以来となる過去最大の減税案です。
米国は、法人税を1%下げれば、10年間で1000億ドルの税収が減ると言われています。単純計算で、20%の減税は10年間で2兆ドルの税収減となります。
最終的に、この未曾有の税制改革は21%で成立しました。
これはいうまでもなく企業にとって追い風です。単純に法人税が10%引き下げられると、それだけ最終利益は増加します。そのため、平均株価は約10%ほど上昇することが考えられます。設備投資などに回すことができる資金が増えることを考えると、もっと効果は大きいでしょう。
2.大規模なインフラ投資
トランプ大統領は、勝利演説で今後10年間で1兆ドルのインフラ投資拡大を行うとしました。
年間平均1000億ドル(GDP比0.5%)が見込まれていることから、それまでの交通・水道インフラの公的支出額の2割超に相当する規模です。建設機械関連企業には大きな追い風となりました。
3.オールドエコノミーの復活
トランプ大統領は、重化学工業などを中心とするオールドエコノミー産業の復活を目指していました。古き良きアメリカを取り戻すというスローガンを掲げて遊説。かつては鉄鋼の街として栄え、その後は衰退してきたペンシルベニア州などで有権者の票を獲得し、勝利を収めたとも言えます。
近年では、情報技術・ハイテク関連企業の台頭や高騰する人件費の観点から、米国にあった企業の多くの工場は中国に移転。その結果、多くの雇用が失われました。その結果、国内の7万もの工場は閉鎖に追い込まれ、失業者、非正規雇用者の数は2500万人にも膨れ上がりました。
そんな海外へ流出してしまった雇用を取り戻すとして、かつて米国を支えた産業の労働者などの支持を得たのです。
大規模なインフラ整備により、彼らの雇用状況の改善につながることは間違いなかったでしょう。
4.米国へ資金の回帰
日本や欧州の税制では、海外子会社からの配当には課税しない仕組みになっています。一方で米国は、企業が海外子会社の資産を米国に戻せば35%の法人税が課されてしまう「全世界課税方式」を採用しています。そのため、大手企業は資金を法人税の低い国に貯め込むようになりました。その資金は設備投資や雇用などに使われません。ただそこにあるのみです。この資金が、米企業全体で2兆ドル近くあると言われていました。
トランプ大統領は、この全世界課税方式を撤廃。その代わりこの莫大な埋蔵金に一度だけ課税する考えを法案に盛り込みました。ため込まれた資金が米国に還流すれば、設備投資などが促進され、さらにインフラ投資の促進と相まって大幅な雇用の回復も見込めます。
悪材料
大規模な景気刺激策など、様々な政策を実行したトランプ大統領ですが、もちろん良いことばかりはありません。日本以外の各国首脳との仲は最後まで改善しないばかりか、国内でも半トランプ派が多数存在するほどでした。
そのなかでも、特に影響の大きな「貿易戦争」と「政府債務の増加」に関して知っておきましょう。
貿易戦争
米国に対しては優遇政策と取る一方、他国に対しては厳しい対応をとったのがトランプ大統領でした。特にインパクトが大きかったのが、中国との貿易戦争です。
圧倒的な貿易赤字国であった中国を問題視。大統領に就任してから1年以上経過した2018年春のこと。米国は、中国からの輸入品に対して約340億ドル相当の関税を課しました。
すると中国は即座に同じ規模の完全を実施。8月に米国が関税を課した直後に中国も同じ規模の関税を導入するなど、激しい貿易戦争が行われました。
9月には、過去2回と大幅に規模が違う約5700品目もの関税を導入。これには中国も切り返したものの、その金額は3分の1以下となり、米国の勝利ともいえる着地となりました。
政府債務の増加
米国の政府債務は、トランプ政権下で5兆6000億ドル増加。貿易赤字は解消するばかりか拡大し、2016年の4810億ドルから2019年には5770億ドルまで増加しました。
◆米国の政府債務の推移
メキシコを中心に力を入れていた移民の取り締まり強化は、労働力人口や生産性の伸びの低下につながり、中長期的な成長率を押し下げたと言われています。
大幅な法人税引き下げや、大規模な政府支出も財政を圧迫しました。
これを補うために、 法人税の国境調整を予定していました。これは法人税の課税にあたり米国からの輸出を免税扱いにし、反対に輸入は課税強化する仕組みです。 国境調整を行えば10年間で1兆ドル以上の増収が見込まれており、トランプ大統領肝いりの改革のひとつでした。
しかし国内の小売業界や自動車販売などの輸入企業の反対や、日本を含む多くの海外企業からの反発があり、最終的に2017年7月、国境調整の導入を見送ることが発表されました。
経済的な実績
米国株式の株価、株価指数の価格を見ると、トランプ大統領は大成功を収めたといえます。
では、GDPや失業率などの経済指標はどうでしょうか。
リーマン・ショック直後のオバマ政権とトランプ政権下では経済状況が違い過ぎて比較するところではありませんが、確認しておきましょう。
政権 | 失業率 | 平均GDP |
トランプ政権 | 4.5% → 3.5% | 2.50% |
オバマ政権 | 8.1% → 4.5% | 2.25% |
非農業部門雇用者数と失業率
米国雇用統計として注目されるふたつの指標を見ておきましょう。
非農業部門雇用者数は、就任時は毎月平均して20万人ほど増加し続けました。
失業率は、元々4.5%と既にかなり低めい水準にありました。それが、コロナショック直前の2019年末には3.5%まで低下しました。
しかし、雇用者の増加を見てみると、トランプ政権発足後3年間の平均で年間220万人と、オバマ前政権2期目の平均で年間260万人を下回っています。これは移民の取り締まりによる影響も大きいでしょう。
経済を代表する指標であるGDPはどうでしょうか。
▼米国の政権別GDPの推移
トランプ政権時は、右肩上がりとなっています。様々な要因があるものの、単純比較ではオバマ政権時と大差がなく、ブッシュ政権前半時と比較すると劣っていることが分かります。
これらの数字を見ると、果たしてトランプ政権は成功だったのか疑問を持つところでもありますね。
米国株式相場への生かし方
このトランプ相場において投資の利益を出すためにはどうすれば良かったのでしょうか。
やはり重要なことは事前準備です。
【トランプ相場で学ぶこと】
- 事前に公約と相場への影響を分析
- 実行される順番を押さえる
- 公約が実現される可能性を分析
- メディアの報道はあてにならない
大統領選挙の前にメディアでは、トランプ氏が大統領になれば、経済が大混乱になると報道されていました。
しかし金融アナリストなどの分析を見ると、トランプ氏は減税や大規模な公共投資を行うと伝えており、その実行力がある旨も知ることができました。
そのため、選挙当日に米国株式相場が急落した際には、ミススプライスと判断し買い向かうことができました。
また、演説でオールドエコノミーを復活されると話していたことから、自動車、建設、重工業などのセクターが大きく値上がりする可能性があると分かったはずです。
リスクは貿易戦争が起きることでした。しかし、時間軸を判断すれば上手く立ち回ることができました。通商交渉は国内問題ではないため、時間を掛けて慎重に進める必要があります。実際に、米国が中国に関税を掛けた時期は、大統領に就任してから1年半後でした。
そのため、先に減税や大規模投資が行われることを理解し、貿易戦争に恐れることなく投資を行うことができました。
また、2018年ごろになると金融政策への介入を行ってきました。当時のパウエルFRB議長への度重なる金融緩和要求を行ったことは有名です。
最終的に、FRBは市場が思うよりも早く緩和方向へ舵を切ることになりました。
それまで、トランプ大統領は気に入らない人は即座に解雇するなど、以前の大統領では信じられないことを次々と実行してきました。その実行力を理解していれば、「まさかのことをやり遂げる」と理解し、金融緩和による株価上昇に乗ることができたかもしれません。
米国の大統領選挙は4年に一度行われます。
事前に大統領及び候補者の公約と実行能力などを調査しておけば、大きな収益を上げることができるのではないでしょうか。