高頻度取引(HFT)とは、コンピューターアルゴリズムを駆使した超高速・高頻度で行う金融取引です。HFTは、ハイ・フリークエンシー・トレーディング(High Frequency Trading)の頭文字。
現在の金融取引の半数以上が、このHFTによる取引だと言われています。
そんなHFTはいったい何なのでしょうか。
その売買の特徴や運用実態、それにより引き起こされる問題点などを解説します。
HFTの特徴
HFTは、過去の値動きを統計的に分析したり、割安・割高などの指標を元に、1秒間に数千回もの高頻度で売買を繰り返します。小額の取引とわずかな値幅であっても、大量の売買を行い取引頻度を上げることで利益を積み重ねていきます。
- プログラム化されたコンピューターによる売買
- 1秒以下の超高速、高頻度での売買
- 市場を動かさない程度の少額取引も多い
- 他の投資家の注文を先回りして買い付ける場合もある
- 株式、為替、先物取引など流動性がある金融商品が対象
HFTの取引の種類
●マーケット・メイキング・アルゴリズム
株価指数先物や株式、ETFなどでの高頻度取引を行う。HFTの中では最も多く、注文を常に出す「メイカー型」と、メイカーの注文に自身の注文を当てて約定させる「テイカー型」の大きくふたつに分けられます。
●裁定アルゴリズム
同一商品の、異なる市場での価格差から裁定取引(アービトラージ)を行う。
●ディレクショナル・アルゴリズム
ニュースや経済指標の発表時に、その内容や結果を瞬時に判断し、いち早く注文を行う。
●レイテンシー裁定
同一銘柄において、複数の取引所への同時発注の注文が入った時に、異なる取引所の注文を見て、ミリ秒単位の注文の遅れがある取引所に対して先回りで注文を入れる。
HFTの運用実態
2014年に『フラッシュ・ボーイズ 10億分の1秒の男たち』(マイケル・ルイス著)というHFT業者に関する本が発売され、ベストセラーになりました。
取引所のデータセンターや隣の建物に証券会社がサーバーを設置することで、取引所の株式売買システムとダイレクトに接続できるようになりました。サーバーの物理的な距離を近くすることで、遅延の要因を限界まで削減。注文を出すまでにかかる時間を100 分の1 秒単位から 1000 分の 1 秒単位に縮めたのです。
この絶対的な速度の優位性を活かし、個人投資家が出した注文Aを先回りして買い付け、注文Aが取引所に届くころに売りつけるという勝率100%取引を可能にしたとされています。
また、2019年に公開された映画『ハミングバード・プロジェクト0.001秒の男たち』では、ふたつのHFT業者が直線距離1600kmの光ネットワークを敷設するために、トンネルを掘るか鉄塔を建てるかで競争。勝負に勝った業者は、取引開始後のわずか5秒間で5000万円の利益を得るほどの成功を収めました。
▼HFTの取引例
買い気配301円、売り気配305円の場合
10時13分32.12秒 | A株に305円で1000株の売り注文を出す |
10時13分32.13秒~ 10時13分32.37秒 | A株の指値を303円に引き上げながら10回連続して買い注文を実施 |
10時13分32.38秒 | 1000株が他の投資家の注文により約定 |
10時13分32.42秒 | 買い注文を全てキャンセル |
10時13分32.43秒 | 買い気配と売り気配が元に戻る |
※この間、生身の投資家の目にはこの売買が何も見えない
HFTの存在意義
大量の売買を行うことで、いつでも売買できるという流動性の供給者として重要な役割を果たすとされています。その一方で、注文情報をいち早く取得し、人間には不可能で目視できないような取引を行う点には批判的な意見もあります。
なお、日本では金融庁がHFT業者の登録を義務付けており、2020年1月時点において、54社が登録されています。
HFTが引き起こす問題点フラッシュクラッシュ
2010年5月6日に、NY株式市場は急落。NYダウは目立ったニュースがないにもかかわらず、一時1000ドル以上急落となりました。
これには、E-mini S&P 500株価指数先物市場でHFTによる誤発注が原因だったとされています。誤発注が誤発注を引き起こすことで連鎖的に売買が加速し、下落が加速。その結果、「売る理由がないにもかかわらず相場が急落する」という事象が発生してしまったのです。
このわずか1か月後となる2010年6月には、大阪証券取引所に上場する日経平均先物において、ドイツ証券のアルゴリズムが誤発注を行いました。180枚単位の注文が機械的に繰り返され、90万枚、金額にして9兆円を超える注文が並ぶ結果となりました。
こういったHFTによる誤発注やフラッシュクラッシュは、年間何十回も発生しているといわれています。
HFT~まとめ
通常のトレーディングは、ファンダメンタルズやテクニカルを分析して価格の先行きを見通します。しかし、HFTはいかにして速く注文を行うかというただの早押しゲームとなっており、従来の投資の概念とは全く異なっています。そのため、アナリストや金融関係者がひとりもいないHFT業者もあるようです。
もはや個人投資家には勝ち目のない世界であり、HFTとHFTとの戦いともいえます。
相場が急変動した際には、こういった取引が行われることでよりボラティリティが出やすくなっていたり、有り得ないような価格での売買が行われると知っておいて損はないでしょう。