米国利上げと量的緩和の縮小(テーパリング)でアメリカの株価は下落し始める

米国金融引き締め(利上げ)だけでなく、最近10年は量的緩和の縮小(テーパリング)でもアメリカの株価は下落し始めると思われます。

米国で量的緩和の縮小(テーパリング)が始まると?

7月のFOMCの議事録が公表され、多くの政策当局者がテーパリング(量的金融緩和の縮小)についての議論を始めようとしていることが明らかになりました。市場には、8月下旬に開催されるジャクソンホールでのスピーチでテイパリングが示唆されるとか、9月のFOMCにでもテイパリングが発表されるとか話す市場参加者が増えていますが、さすがにそれは早すぎるでしょう。

4月、5月は、商品価格(エネルギー、メタル、農作物)が急上昇していて、インフレ懸念が多少はありました。しかし、5月中旬以降、多くの商品市況は反転し下落もしくは調整傾向にあります。あれだけ騒がれた木材価格は、すでに3分の1まで暴落しています。8月に入って、エネルギー価格も下げ始めました。

パウエル議長の会見内容からみてもFRBはこれまで繰り返してきた通り、雇用状況を最も重視しているようです。毎年7月、8月は夏休みの影響もあり、雇用者数は減少します。7月の雇用統計を見ても、季節調整前は13.3万人の減少でした。季節調整後では、94.3万人の増加でした。季節調整前の数字から見ると、2月以降堅調な増加傾向でした。今は8月末までアメリカは夏休みシーズンで、夏休み明けは9月の第1週の週末にあるレイバーデイ明けとなります。夏休みシーズンでリゾート施設などの雇用が進んでいますが、レイバーデイ明けがどうなっているのかが焦点となります。同じように雇用が大きく減った運輸部門も注視する必要があるでしょう。※参考までに、雇用者数のグラフを見てください。

レジャー、宿泊施設の雇用者数(季節調整前)

(季節調整後)

出所:FRB St. Luise


空運関係の雇用者数(季節調整前)

(季節調整後)

出所:FRB St. Luise

学生は新学期が始まります。ワクチン接種も進み、多くの企業は、従業員の職場復帰を9月のレイバーデイ明けを計画しています。一方で、デルタ株やラムダ株などの新しい感染者数はアメリカにおいても増加傾向にあります。この影響も見極める必要が出てきています。こうしたことから、FRBは、9月の雇用統計を見極めなければ、判断できないと思います。

雇用統計の事業所調査は毎月12日の含まれる週の週末をめどに聞き取りが行われます。9月は、13~17日となります。10月8日に発表される雇用統計は非常に重要な意味を持ちます。

米国量的緩和の縮小(テーパリング)発表時のアメリカの過去の株価推移

テーパリングは、遅かれ早かれ行われるでしょう。それが10月になるのか12月になるのかは、経済指標次第でしょう。では、過去FRBがテーパリングを発表したとき、過去の米株価がどのように反応したのかを検証してみましょう。



2013年5月:バーナンキ―FRB議長がテーパリングを示唆
S&P500株価指数、NASDAQ株価指数ともその後の1ヶ月間で、約6%の調整しましたが、その後は堅調な推移に戻って株価は上昇し続けました。しかし、長期金利(10年国債)は、1.6%から8月には3.0%まで上昇し、債券投資家はパニックに陥ました。

2015年12月:FOMC初めての利上げ
翌年2月までに、S&P500株価指数は、-11%、NASDAQ指数は、-15%と下落しました。

2017年5月以降FRBの資産残高縮小開始

2018年9月:FOMCはFF金利のターゲットを2.0~2.25%まで利上げ
9月以降その年のクリスマス休暇までの間に、S&P500株価指数は、約20%、NASDAQ指数は約23%下落しました。

2019年9月:レポショックからFRBは短期国債の購入開始

2020年2月まで株価は上昇

2020年2月:パウエル議長は議会証言において、短期国債の購入中止を示唆
2月21日をピークに、株価は下落開始、3月にはCOVID-19の混乱から、株価は急速に下落基調を加速。2020年3月:FRBは緊急利下げを実施するも株価の下落は止まらず、国債、モーゲージ債の購入も実施。財務省からの景気刺激・救済パッケージの発表で3月24日に株価は底打ち。4月には社債(ジャンク債も含む)の購入も開始。

米国量的緩和の縮小(テーパリング)による株価推移の予想分析

こうした経緯を見直してみると、テーパリングの示唆は株価にとって非常に悪材料となりそうです。長い歴史で見れば、株価は利上げ後に調整を始めていましたが、過去と比べて、アメリカの経済システムは脆弱になっていると感じています。いろんな株価評価指数は、割高と言われています。シラーPER指数、バフェットインディケーター、高いPERなど多くの指数が株価は割高となっていると表れています。今の状況は、丁度2019年の12月から2020年の1月に似ていると思っています。テイパリングが示唆されれば、いいキッカケとなって一旦株価は調整するでしょう。

それでもテーパリングが示唆され、始まったら株式市場はある程度調整すると思われます。では、どこまで下がるのか?一つの目安としては、200日のボリンジャーバンドで下方の3σが一つの目安と過去はなっていました。(下のグラフ参照)

ドルコスト平均法で投資を継続していくことは非常に有効な投資手段ですが、さらにリターンを高めるためには、ある程度ポジションにメリハリをつける必要があります。基本は、ETFなどでコアとなるポートフォリオをドルコスト平均法で積み立てていきながら、個別株でさらなるプラスアルファを狙っていくという投資手法がおすすめです。

下げ相場になったときには、個別株は、グロース銘柄からディフェンシブ銘柄に入れ替え、上げ相場になったときには、ディフェンシブ銘柄からグロース銘柄に入れ替えていくというのがテーマとなります。上げ相場と下げ相場の目安は、25日と90日の移動平均から判断できるゴールデン・クロス、デット・クロスを目安にするといいでしょう。

別レポートにて、ディフェンシブ銘柄についての説明、代表的な個別銘柄紹介を行います。ご参考にしてください。

ディフェンシブ銘柄の代表格~米国ヘルスケア株




出所:FRB St.louisのデータから作成

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