為替市場最大の衝撃的相場スイスショック

スイスショックとは、スイスフランの急騰が引き起こした歴史的な為替相場のことを指します。主要な通貨の中で、これほど変動した相場はリーマン・ショックや欧州債務危機でも起きませんでした。

そんなスイスショックとは一体何だったのか。

今後の相場への生かし方や、このショック相場で大きな利益を挙げた方法まで解説します。

スイスフラン高是正策としての無制限介入

スイスショックは、2009年からの欧州債務危機に端を発するスイスフラン高に対抗するための金融政策が発端となっています。

スイスは貿易黒字国でヨーロッパのなかで輸出大国です。GDPの大半を輸出企業が生み出していたため、日本同様に自国通貨高よりも通貨安の方が国内経済が成長しやすいという状況でした。

しかし、欧州債務危機により安全通貨とされるスイスフランが対ユーロで買われはじめ、2011年8月には当時の過去最高値を更新しました。

これを受けて、スイス中央銀行(SNB)は、国内経済の悪化は回避したいとの思惑から、2011年9月6日に1ユーロ1.2000フランを上限とした無制限の為替介入(ユーロ買い、フラン売り)に踏み切ると宣言。スイスフランは瞬間的に全ての通貨に対して急落することとになりました。

特に、中央銀行による無制限介入というインパクトは非常に大きく、ユーロスイスフランは、1.2000を割り込む場面が無くなりました。

中央銀行は、無限にスイスフランを発行することができるため、理論的には半永久的に介入し続けることが可能なのです。

そのため、この政策の発表後は、短期筋のファンドなどがスイスフランに対してユーロ買いポジションを積み増す投資戦略がみられました。

為替レート上限の撤廃

スイス中央銀行が無制限介入を発表してから、3年ほどはユーロスイスは1.200~1.2600程度で推移していました。

2013年5月に1.2600程度まで進んだスイスフラン安ですが、その後はゆっくりとスイス高となる動きを見せていました。そして2015年1月に入ると、1.2000ギリギリまで下落する動きを見せはじめました。

2015年1月15日スイス国立銀行は、2011年9月から設定していた対ユーロの上限を撤廃。為替介入を廃止することを突然発表しました。同時に政策金利誘導目標を、従来は、-0.75%~0.25%から-1.25%~-0.25%へと引き下げました。

◆ユーロスイス週足チャート

これにより、スイスフランは全ての通貨に対して急騰。対ユーロでは、一時0.8517フランの過去最高値を付け、一瞬で40%もの変動。対円でも30円以上の上昇となり、歴史的大変動が発生しました。

このスイスフランの暴騰は世界中の金融市場に連鎖。為替市場は大変動したことはもちろん、株式市場の下落も引き起こしました。

上限撤廃の背景

中央銀行による介入は、一定の成果をみせていました。しかし、長引くユーロ圏の不況に加えて、デフレ懸念も台頭。欧州中央銀行(ECB)による量的金融緩和への観測が高まりました。その結果、2014年後半からユーロ売り、スイスフラン買いの圧力が強まってきました。

またスイスの外貨準備高がGDPの7割まで膨れ上がっていたことで、SNBはECBがQEを実施すれば1.2000の上限を維持するための継続的な介入は不可能と判断し、上限撤廃に踏み切ったとみられます。その直後である1月22日に、欧州中央銀行は量的緩和の実施を決めました。

個人投資家やFX会社の影響

スイス絡みの買いポジションを保有していた個人投資家の多くが強制ロスカットに見舞われたばかりか、FX大手のアルパリUKは、顧客の強制ロスカットによる証拠金の入金がなく、倒産に陥る事態となりました。

英銀のバークレイズは、数千万ドルの損失を被り、FX取引プラットフォームのFXCMは顧客の損失が約2億2500万ドルに上りました。

日本ではスイス絡みの売買が小さかったことから、マネックスグループの未回収金1億6000万円が最高だったようです。

スイスショックから学ぶ投資

歴史的な為替相場から何を学ぶことができるのでしょうか。

それはやはり、相場への介入は一国の中央銀行であっても困難ということでしょう。

2009年から2012年にかけて、日本は円高対策としてドル円相場に対して何度も為替介入を行いました。しかし、それは一時的な反発で終わり、翌日には円高に戻ることになりました。

スイス国立銀行は「無制限介入」という市場を驚愕させる政策に打って出たものの、それでもユーロ安には勝てずに政策変更を余儀なくされました。

相場にできた大きな歪みは、いずれ是正されるものなのです。

そして、行き過ぎた相場もまた是正されることが分かります。

スイスショック直後に、様々な通貨が対スイスフランで安くなりましたが、その後の数か月間で、ほぼ全ての通貨ペアがほぼ元の水準に戻ることになりました。

一番流動性の高いドルスイスは、ショック安で急落したものの、翌日から反発。

2カ月程度で、下落幅をほぼ打ち消すこととなりました。

◆ドルスイス日足チャート

ここまで大きく戻った背景には、ECBによる金融緩和の影響でユーロよりもドルが強くなり、スイスショックの影響からスイスフランの取引不安が高まりドルが買われやすくなったためです。

しかし、ほぼ全ての通貨ペアが同じように戻ったのには、強制ロスカットなどによる過度に行き過ぎた相場にポジション調整が行われた影響が大きいのではないでしょうか。

これらは、週末に大きなニュースで相場が下落した際に、極端に動きやすいことと似ています。そのため、たとえトレンドが大きく変わるようなニュースだったとしても、行き過ぎた相場が翌日に少し戻りやすいということを意識しておくことで良い取引につながるのではないでしょうか。

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