相場は主に経済と金融政策で動きます。しかし、選挙や投票などの政治的要因でも時に非常に大きな相場変動を起こすことがあります。
近年で相場にインパクトを与えたイベントとして有名なものは英国のEU離脱の是非を問う国民投票。英国人にとって一大決断となった国民投票は、相場への大きな影響を与えました。
ブレグジットとはなんだったのか。そして、どのような相場になったのか。
変動が大きかった2016年の動向を解説します。
ブレグジットとは
ブレグジットとは、英国がEUからの離脱することいいます。EUのルールに縛られたくなかった英国が、離脱するか否かを決めるために国民投票を行う過程から離脱協議、そして離脱するまでのことも指しています。
2016年6月23日に国民投票が行われました。その結果、離脱が51.9%、残留が48.1%となり離脱が決定しました。投票率は72.2%でした。
なお、ブレグジットはBritain(英国)とExit(出口)の造語です。
英国がEUを離脱した背景
そもそもEUは、第2次世界大戦の反省から戦争をしないための仕組みとして、1950年代にヨーロッパ石炭鉄鋼共同体(ECSC)ができたところが始まりです。
しかし、戦勝国であった英国は加盟しませんでした。その後に英国は不況に見舞われたため、経済的メリットから1973年にECに加盟しました。つまり、他の国と加盟する目的が違ったわけです。
そのため、ヒト・モノ・カネが単一市場であるEUと英国は少し異なっています。
項目 | 英国 | EU |
通貨 | 英ポンド | ユーロ |
中央銀行 | 英国中央銀行 | ヨーロッパ中央銀行 |
ヒトの移動 | 入国チェック | 自由 |
通貨:英国ではEUの通貨であるユーロは使わず、英ポンドのままで、中央銀行が違うため当然金融政策も異なります。
またEU内での人の移動が自由で、国境はノーチェックで通過できるのですが、英国に入国時には入国カードなどを書く必要があります。
つまり、英国はEUにいながら良いとこどりをしている状態であったともいえます。
戦勝国であり、海を隔てているため、他の国とは考え方が合わない部分が大きかったのではないでしょうか。
そんななか、2012年以降に移民が急増します。これが英国の人が日ごろから溜まっていたEUへの不満を膨らませるキッカケとなりました。そして、EUに不満を持つ人が多い保守党のキャメロン首相が国民投票に踏み切りました。
しかし、キャメロン首相自身はEUにいるメリットの方が大きいと感じており、離脱は予想外の結果だったそうです。
ブレグジットによる株式相場、為替相場への影響
歴史的な大国の国民投票は、世界中の金融市場にも大きく影響しました。
特に大きく変動したのは、英国の株式市場と通貨である英ポンドですが、株式市場も大きく動きました。
▼2016年6月 主要株価指数と為替相場での英国ポンドの値動き
商品 | 始値 | 高値 | 安値 | 終値 | 騰落率 |
英FTSE100 | 6230.8 | 6504.3 | 5788.7 | 6504.3 | 4.39% |
NYダウ | 17754 | 18016 | 17063 | 17929 | 0.99% |
日経平均 | 17097 | 17145 | 14864 | 15575 | -9.9% |
英ポンド | 160.29 | 160.66 | 133.21 | 137.28 | -16.36% |
ドル円 | 110.72 | 110.83 | 99.00 | 103.27 | -6.73% |
2015年末から、いよいよ来年は英国のEU離脱の是非を問う国民投票が行われるとあって、クリスマス明けから英ポンドが大きく下落。呼応するように、主要国の株価も大きく下落しました。
▼英国ポンド円の日足チャート
しかし、その後は英ポンドは乱高下するものの、主要国の株価は落ち着きを取り戻し、NYダウは年初からの下げ幅を取り戻す展開となりました。
離脱警戒感があるとはいえ、離脱による経済的なメリットは小さく、残留になるという予想の方が市場参加者の中では多かったためだといわれています。
英国の株価指数であるFTSE100も、2月半ばまで下落したものの、4月には年初来高値を更新。6月に入っても安定推移を続けるほどでした。
相場が動き始めたのは、投票2週間前の6月9日でした。投票前の警戒感や離脱優勢という予想の報道から、FTSE100が4日間連続で下げ続け6%以上の下げ幅を記録したのです。
しかし、その後に行われた予想では残留優勢となり、相場は下げ幅帳消しにする動きを見せます。
その週は、投票の1週間前とあってオプションヘッジが加速。下方向のオプションのプレミアムが上昇しました。
英国国民投票の日の相場
そして迎えた投票当日。開票は残留が優勢となり株価や為替は上昇して始まりました。しかし、その後は離脱が優勢となり急落へ。離脱が決定的となるか株式市場と為替相場はクラッシュ。市場が開いていた日本市場は売りに売られ、日経平均先物はサーキットブレイカーを発動。英ポンド円は数分間で10円以上も急落するというリーマン・ショック級の変動を見せました。
特に日経平均株価は、ドル円が一時100円割れまで下げたことを受け、その日の主要株価指数のなかでは9%近くと最大の下落率となりました。
▼日米欧の主要株価指数の値動き
しかし、覚えておきたいことはその後の英国の株価動向です。
急速に進んだ英ポンド安を受け、英国の不動産やブランド物の購買意欲が急上昇。外国人による大量買付けがみられました。通貨安による恩恵が受けられること、そしてEUの離脱は早くても2年後であることから、目先の景気好転の思惑から、英FTSE100は6月の高値を更新し終えることになりました。
英国ブレグジット相場から学ぶもの
英国がEUを離脱するかどうかという一大イベントは、投資家にとって初めての事態であり、前例がありませんでした。
選挙のように事前予想が度々発表されるため、その情報をもとに相場は反応しますが、経済的なメリットを考えて「僅差で残留するだろう」という予想が大まかな市場のコンセンサスとなっていました。
しかし、英国の方の昔の状態を求める気持ちであったり、移民を受け入れられないなどの経済的メリット以外の「生き方」という部分を予想できませんでした。そのため、実際に離脱という結果が出ると株式指数がサーキットブレイカーを発動するほど想定外の動きが多発。
英ポンドなどは瞬間的に10%をも変動する、およそ主要国通貨では有り得ないレベルの急変を巻き起こしました。
選挙や投票などのイベントでは、「人の信条や生き方」を知る必要があるということですね。