チャイナショックの要因と中国当局の対応が上海株式市場と株価に与えた影響

世界で2番目の経済規模を誇る中国。その株式市場の動向は、当然世界中に影響します。

そのため、投資をするうえで中国株の動向を知っておくことは欠かせません。

今回は、2015年に発生したチャイナショックと呼ばれる中国株の大暴落の相場動向を要因を解説します。

チャイナショックとは、中国の景気失速懸念や金融政策の変更、シャドーバンキング問題などから中国株の急落や人民元の変動を招き、それが世界中の金融市場に伝播して、混乱を招いた事象の総称を指します。

【チャイナショックに含まれる代表的な事象】

年月下落の要因下落率
2015年6月 株式バブルの崩壊35%
2015年8月 人民元切り下げ29%
2016年1月 サーキットブレーカーの発動25%

◆上海総合指数の推移

中国株バブルの崩壊

中国株の大暴落は、加熱しすぎた株式市場のバブルが弾けたことが引き金となり、2015年6月12日から株価の大暴落が始まりました。その後の一ヵ月で、上海証券取引所は時価総額の3分の1を失うこととなりました。

上海株式市場のバブルの背景

2015年の上海株式市場は、過去に例を見ないほど急激に上昇しました。

その背景には、当局による株式投資の推奨とメディアの報道があります。

2015年3月に行われた両会(人民代表大会と政治協商会議)で、周小川中国中央銀行総裁は「株式市場への投資は実体経済への投資でもある」と発言。中国政府が株式市場を支持する明確な姿勢をみせました。

その後は、新華社、人民日報などの政府系メディアが、株高をあおる報道を行いました。

政策に左右されやすい中国株は、政府の意向で株価動向が決まる「政策相場」として知られています。中国の個人投資家には「株をやるなら人民日報を読め」という格言があるそうですから、これらの材料は株高の到来を予見させたのでしょう。

3月に3300ポイントだった上海総合指数は、4月には4500ポイントとなる30%以上もの上昇を演じました。

これにCSRC(中国証券監督管理委員会)は、敏感に反応。IPO(新規株式公開)を増やし、投資資金を分散させ過熱気味の市場を冷やす対策を取りました。

しかし、人民日報は「4000ポイントは強気相場のスタートラインにすぎない」と報道。これをきっかけに、投資家のスイッチは切り替わり熱狂が市場を席巻することになります。

株式投資をやったことのない素人の多くが、株を買い始めるようになりました。さらには、信用取引を行う人や、借金をしてでも株を買う人も続出することになりました。

これがバブルを加速させ、6月には5000を超えるほどに急騰したのです。

中国株バブルの大きな要因となった外部信用取引

「外部信用取引」とは、株ブームのなかで登場した個人投資家向けの融資サービスです。

日本では信用取引のレバレッジは約3.3倍ですが、外部信用取引のレバレッジは5倍以上。なかには10倍を利用できる会社のサービスもあったそうです。この場合、株価が10%下落すれば強制決済に追い込まれ元金がゼロになってしまう可能性があります。

しかし、どうせ株価は上がるという熱狂的ブームの中で借金をして信用取引を利用する高いリスクを負う投資家が多数。学生でも、借金をしてまで株を買う状況でした。

なお融資会社は、株で損をした投資家から借金を取り立てられなくなる事態を防ぐため、投資家の口座を監視。株価が警戒域まで下落すれば、すぐさま顧客の保有株を強制決済し資金を回収するという仕組みをとっていました。

訪れた上海株式市場の崩壊とバブルの終焉

もともと追加景気対策への政策期待や金融緩和などを背景に、2014年には6割も上昇していた上海総合指数は、メディアの煽りもありバブル的な加熱へと突き進みました。

しかし、新規参入した個人投資家が借金をしてさらに信用取引にまで手を出すほどの相場に次の買い手は存在しません。いわゆる、最後のババは既に引かれてしまったのです。

2015年6月12日にリーマンショック後の最高値をつけたものの、週明けの6月15日には3%ほど急落し、いよいよバブル崩壊が始まりました。その後の3週間余りで、株価は3割以上も下落し市場はパニックに陥りました。

常時1000以上の銘柄がストップ安となり、売るに売れない状態がさらなるストップ安を呼び込みました。すると上場企業は、自社株の暴落を防ぐための自衛策として次々と自社株の売買停止を申請。こうして、上場銘柄の半数以上にあたる1400社に及ぶ企業が取引停止を申請し、1300もの銘柄が売買停止となる未曾有の異常事態が発生したのです。

◆上海総合指数日足チャート

この動きを見た日経新聞は、「中国も『ポストバブル』の世界へようこそ」と題する記事(2015年7月5日)を掲載したほどです。

バブル崩壊後の中国政府の対策

これに対して、中国当局は預金準備率と金利引き下げなどの市場操作を行いました。しかし事態は一向に好転の兆しを見せませんでした。

そこで当局は、巨額の資金を捻出して株を買う、空売りを行う人を逮捕する、株式を売却させないという強硬手段に出ました。

【中国当局が行った対応】

  • 空売りを制限、違反者は逮捕
  • 大手投資信託と年金基金に株式の購入を誓約させる
  • 株式新規公開を停止
  • 中央銀行のバックアップで投資家が株式を購入するための基金を設立
  • 国営メディアを通じて株式の購入を促進
  • 企業の5パーセントを越える大株主が保有株を売却することを半年間禁止

これら対策が行われた結果、株価は大幅に反発。100%を超える上昇率を見せる銘柄も複数登場し、7月9日から7月24日にかけての2週間で上海総合指数は24%上昇しました。

この間に、政府が動かした資金は少なくとも5兆元(80兆円)に達するといわれています。

人民元切り下げ

2015年8月11日、中国人民銀行が20年ぶりの人民元の実質的な大幅切り下げに踏み切りました。

また、8月13日まで3日連続で対ドル為替レートの基準値を引き下げたことで、夏季休暇明けの世界のマーケットは大混乱。為替相場が乱高下したことはもちろん、株式相場の急落も引き起こしました。

この背景には、輸出部門のてこ入れがあったようです。

【中国人民銀行が行った人民元の切り下げ】

8月11日:1.86%切り下げ、1ドル6.2298人民元に
8月14日:2.69%切り下げ、1ドル6.3975人民元に

◆人民元対ドルチャート

その後、人民元の切り下げがいったん収まったため市場は落ち着きを取り戻したかに見えました。しかし、8月18日に再び上海株が急落すると、それをきっかけに8月26日まで世界の株式市場に株安が連鎖しました。

日・米・中の株式市場が高値圏にある中、当時の中国経済は順調に成長を続けており、それに伴い人民元も上昇していくだろうという共通シナリオでした。そんななか、上海株の急落が落ち着いた中国で、何の前触れもなく人民元の切り下げを実施したことは市場にとって十分な差し水となりました。

これまでの資金の流れが逆回転し始めた。上海株の下落はもちろん、アジア最大の株式市場である日本は一番大きな被害を受けました。日経平均株価は、わずか数日で3,000円近くも下落する結果となったのです。

◆上海総合指数日足チャート

チャイニーズ・ブラック・マンデー

8月24日、上海総合指数は8.49%の下落を記録した。翌25日にも7パーセントを超える下落を記録。当局は、再び利下げや金融緩和などの対応を行ったものの、1週間週で16%も下げる結果となりました。

また、11月27日に上海総合指数は5%以上もの下げ幅を記録したため、ブラック・フライデーと呼ばれているようです。

サーキットブレーカーの発動

2016年最初の取引となる1月4日、中国の12月製造業購買担当者指数が市場予想を大きく下回り、上海株が暴落しました。それをきっかけとして、株安が世界中に連鎖しました。

暴落のもうひとつの要因として、1月4日に新たに導入したサーキットブレーカーが初日に発動されたことがあります。

サーキットブレーカー発動の基準となるのは上海と深センのCSI300という株価指数。この指数が前営業日比で5%以上変動すると15分間取引が休止され、7%変動すると終日取引停止となる仕組みでした。

◆上海総合指数日足チャート

1月4日に7%下落したことから、早くもサーキットブレーカーが発動。株式と先物の取引が終日停止されてしまいました。さらに1月7日にも2回目のサーキットブレーカー発動となりました。初めてのサーキットブレーカーが、売り損ねた投資家の売り注文に拍車をかけた可能性があり、混乱を招いたとされています。

本来、投資家を冷静にさせるためのサーキットブレーカーでしたが、その導入がかえって株価の急落を助長してしまったとの見解が出てきました。そのため、証券当局はサーキットブレーカー制度を一時的に見合わせることになりました。

チャイナショックまとめ

株価の急落に対して、中国は株価の購入を制約させたり、大株主の売却を禁じるなど、あらゆる手を尽くして止めようとしました。他の国の当局できない市場介入ともいえます。

いったん収まったかに見えた株式市場ですが、その後も安値更新は続きました。

スイスショックなどのような当局による大規模な市場介入は歴史的に成功した試しがありません。このことから、市場は歪めることができないということを学ぶことができます。

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