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チャブ損害保険は上場企業としては世界最大級の損害保険会社
著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米バークシャー・ハザウェイが5月15日、損害保険大手チャブ(正式商号:Chubb損害保険株式会社)の株式を3月末時点で67億1700万ドル(約1兆400億円)相当を保有していることが明らかになりました。
ポイント
- チャブは世界最大級の損害保険会社
- 31年連続増配中の配当貴族
- アナリストは「買い」推奨
保有が伝わって以降17日までに、チャブ株は15日終値比8.4%上昇しています。
チャブはスイス登記の米国商業保険会社であり、上場企業としては世界最大級の損害保険会社です。損害保険を中心に再保険、生命保険など幅広い事業を展開しています。
本店所在地 | スイス・チューリッヒ |
総収入保険料 | 575億ドル |
総資産 | 2,349億ドル超 |
従業員数 | 約4万人 |
事業展開国・地域数 | 54 |
格付 | S&P:AA、A.M.Best:A++ |
米国のビジネス向け保険、農作物保険、および個人富裕層向け保険でトップに君臨しています。
地域別の保険料収入の割合は、7割超が世界の保険市場の成長地域である北米(57%)、アジア(19%)で占めており、両地域は今後10年間で他の保険市場よりも40%速いペースでの成長が期待できる見通しです。
チャブの地域別保険料収入の構成比(2024年第1四半期)

積極的なM&A(合併・買収)によって業容拡大に成功しており、過去15年間で470億ドル規模の買収をおこない、株主価値の向上につなげてきました。
同社の中核事業である損害保険事業を担う会社は、格付大手S&Pより「AA」を取得しています。AAはグローバル保険会社トップ20社のうち、チャブを含む僅か5社しか取得できておらず、健全性が高く評価されていると言えるでしょう。
ニューヨーク証券取引所に上場しており、ティッカーシンボルは「CB」です。多くの機関投資家がベンチマークとするS&P500の構成銘柄でもあります。
チャブの業績推移
チャブの過去5年間(2019年と2023年)を比較した業績は、総収入保険料および希薄化後1株あたり利益(EPS)ともに順調拡大しました。
- 総収入保険料は43%増(401億ドルから575億ドルへ)
- 希薄化後EPSは2.2倍(9.71ドルから21.8ドルへ)
再保険大手スイス・リーによると、世界最大の損害保険市場である米国の損害保険料は2024年に8.0%、2025年には5.0%の伸びを示すと試算しています。損害保険に強みを持つチャブにとっては今後も更なる業績拡大が期待できそうです。
コンバインド・レシオ※1に関しては、2014年から2023年の過去10年間において一貫して競合企業の平均を下回り、チャブの収益力の高さが示されています。
※1 コンバインド・レシオとは、保険料収入に対する保険金支払いや事業費の支出の割合を示すもので損害保険会社の収益力を示す重要な指標の一つとなります。同指標が低いほど保険収益力が高いことを示し、反対に100%を超えると保険収益面では赤字になることを意味します。
損害保険のコンバインド・レシオの比較

競合企業には、AIG、オールステート、CNAファイナンシャル、ハートフォード・ファイナンシャル、トラベラーズを含む。
株主還元に積極的であり、31年連続増中の「配当貴族」です。2023年の配当性向は15%台とさらなる還元余地を残します。
- 総還元利回り(自社株買い+配当)は3.63%
- 配当性向は15.6%
2004年3月1日から2024年3月1日までに、時価総額は年率11.1%拡大しました。株主に対しては年率11.4%のトータルリターン(配当含む)を生み出しており、S&P500の9.9%、S&P500損害保険サブ指数の10.2%を上回っています。
チャブの時価総額の推移(億ドル)

バリュエーション面に目を転じると、チャブの予想PERは12.6倍と、S&P500の20.1倍、S&P500金融株指数の15.1倍と比較して割安な水準で推移している状況です。
チャブはバークシャーにとって9番目の保有額
バークシャーは3,300億ドル超の上場株式を運用し、現預金と米短期債の保有額を合算した広義の手元資金を約1,890億ドル保有する株式市場における「巨大なクジラ」です。
巨額の資金が流れ込むことが期待できるため、世界中の投資家がバフェット氏の一挙手一投足に注目しています。特に、日本では5大商社株の保有が明らかになった際に大きな注目を浴びました。
今回、バークシャーは約1兆円を投じてチャブの発行済み株式数の約6%を取得しており、バークシャーにとって9番目の保有額になります(保有上場株全体の時価総額ベースで約2%相当)。
バークシャーの保有上場株(時価総額ベース、億ドル)

バークシャーは投資会社といっても、傘下には生損保、鉄道、公益・エネルギー、金融、製造、小売など多数の事業を抱える複合企業(コングロマリット)です。
バークシャーは、損害保険事業が同社にとってウェルビーイング(幸福)と成長性の中核を成します。同事業をはじめて57年が経ち、取扱高は1,700万ドルから830億ドルへと約5,000倍に拡大したにもかかわらず、まだ伸び代があるとバークシャーは指摘しています。
傘下の自動車保険ガイコが米国の自動車保険で第3位のシェアを握っています(2024年5月時点、出所:ValuePenguin)。
保険事業から安定的にキャッシュを創出することで、その資金を継続して運用資金に回すこともできるでしょう。この資金のことを「フロート」と呼び、2023年には約1,690億ドルに達しました。
チャブも損害保険が総収入保険料の7割弱を占める中核事業です。バークシャーは、チャブの収益性の高さや安定的にキャッシュフローを生み出している点などを評価し、他の銘柄よりも大きな可能性を見出したのかもしれません。
アナリストのチャブの目標株価
ここからは、ウォール街のアナリストによるチャブ株の目標株価を見ていきましょう。
アナリスト22名のコンセンサス・レーティングは「Buy(買い推奨)」です。目標株価の平均値(12か月後)は267.07ドルであり、5月17日終値(274.28ドル)はすでに目標株価の平均を上回っています。アナリスト予想の最高値は294ドル、最安値は240ドルです。
チャブの株価推移

価格 | |
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目標株価の平均値(12か月後) | 267.07ドル |
2024年5月17日終値 | 274.28ドル |
アナリスト予想
株価 | |
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最高値 | 294ドル |
最安値 | 240ドル |
今後、業績の拡大や株主還元の強化などのポジティブニュースを確認できれば、アナリストによる目標株価の引き上げや株価の上昇が期待できるでしょう。