この記事のポイント
- 金先物、現物、金鉱株関連ETFはいずれも最高値圏
- 利下げやドル信認低下、中銀の買いなどが追い風
- 金鉱株関連の注目株3選
目次 ー Contents
金先物、現物、金鉱株関連ETFはいずれも最高値圏
金(ゴールド)の価格が最高値を更新する展開が続いています。国際指標となるニューヨーク先物(中心限月)は1トロイオンス3,889ドルで推移している状況です(9月30日時点)。
金先物価格は最高値を更新する展開
COMEX、日足

現物価格は2025年初来で44.8%高と、多くの機関投資家が参照するS&P500(13.5%高)を大きくアウトパフォームしています。
世界の代表的な金鉱株を組み入れた上場投資信託(ETF)「ヴァンエック金鉱株ETF(ティッカーシンボル:GDX)」はさらに値上がりしており、年初来で2.1倍強と、史上最高値を更新する展開が続いています。
金価格が好調に推移する背景として、米国の利下げに伴う金利の低下期待、トランプ政権下の財政不安、米連邦準備理事会(FRB)および基軸通貨としてのドルの信認低下、地政学リスクなど複数の要因が重なっています。
FRBは9月17日まで開いた連邦準備公開市場委員会(FOMC)で0.25%の利下げを決めました。FOMC参加者による経済見通しにおいては、2025年中に2回、2026年は1回の利下げが見込まれています。
一般的に利下げ局面では金利を生み出さない金関連の資産価格の上昇が期待できます。今後、雇用関連の幅広い指標が悪化して景気減速懸念が強まれば、景気の「悪いニュース」を通じて利下げペースが加速し、金関連にとっては「良いニュース」となり得るでしょう。
トランプ政権によるFRB人事への介入や利下げ圧力は中央銀行の独立性を揺らがしています。同政権が7月に成立させた減税・歳出法(OBBB)によって債務拡大リスクも燻っている状況です。
これらによりドルの信認が低下しており、主要通貨に対するドルの強さを示す「ドル指数」は約3年半ぶりの低水準で推移しています。直近では政府運営を続けるための「つなぎ予算案」が成立せず、政府機関の一部閉鎖に陥る懸念が広がっていることも嫌気されています。
一方、世界のどこでも価値が認められている「無国籍資産」である金に投資マネーが流入しています。ロシアのウクライナ侵攻、米中対立など地政学リスクも意識されるなか、相対的にみて「安全資産」とされる金が選好されている状況です。
さらに、需給面からみても新興国を中心とする中央銀行や機関投資家、個人の買いが続く見通しです。
欧州中央銀行(ECB)がまとめた報告書において、世界の中銀の外貨準備に占める金の割合が2024年にユーロを上回り、米ドルに次ぐ資産になりました。
金が中銀の準備資産に占める割合が第2位に

国際調査機関のワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)の調査によると、世界各国の中銀は今後5年間で世界の準備資産における米ドルの保有が中程度または大幅に減少する一方、金のシェアが拡大するとみています。
金に関しては危機時のパフォーマンス、価値保存手段としての機能、効果的な分散投資手段としての役割を評価しています。
4月にはトランプ関税によって株安と債券安が同時に進みました。インフレ懸念も燻っています。そのようななか、最近では伝統的運用手法として知られる「60/40ポートフォリオ」からの移行を推奨する声が散見されています。
ウォール街の重鎮がポートへの金組み入れ促す

例えば、著名投資家のレイ・ダリオ氏は米国政府の過剰な支出と債務の急増が「持続不可能」な状態に陥っていると指摘し、ポートフォリオの約10%を金で分散投資するよう提唱しました。
金鉱株関連の注目3選
| 銘柄 | ティッカーシンボル |
|---|---|
| アグニコ・イーグル・マインズ | AEM |
| バリック・マイニング | B |
| ニューモント | NEM |
ここからの金鉱株関連の注目株3選を紹介します。
過去12か月の株価パフォーマンスをみると、注目3銘柄が金(スポット)やS&P500をアウトパフォームしており、足元までモメンタム(勢い)を保っている状況です。
注目3銘柄、金スポット、S&P500のパフォーマンス

1銘柄目はカナダのトロントを拠点とするアグニコ・イーグル・マインズ(AEM)です。
アグニコ(ティッカーシンボル:AEM)はカナダのケベック州北西部やメキシコ北部、フィンランド北部で金、銀、銅などを採掘しています。地質面の高いポテンシャルと政治的安定性を有する地域において競争優位性を確立している世界第3位の産金業者です。
北米、オーストラリア、北欧といった政治リスクの小さい地域でのエクスポージャーが100%であり、事業展開国数も競合他社と比較して少なく、相対的に低リスクの経営を実践しているところが特徴として挙げられます。
同社は2005年からの20年間で金の生産量は17倍、EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)は10倍、年間の配当金額は50倍と、業績および株主価値を大きく高めている状況です。
直近の2025年第2四半期決算は調整後EBITDA、調整後の純利益、フリーキャッシュフロー(FCF)が過去最高に達しました。
アグニコは露天掘り式を採用しており、坑道を作って採掘するよりも生産コストを抑えることができるという特徴を有しています。採掘の人件費やエネルギーコスト、鉱脈の探索費などからなる平均生産コスト(AISC)は1トロイオンスあたり1,289ドルです。足元の金価格(約3,889ドル)は同社のAISCを2,600ドル上回っており、金価格の値上がりに伴う採掘事業の採算改善が好調な業績の要因の1つとして挙げられます。
FCFの大幅な改善により負債を大きく圧縮させられており、ネットデットの状態が解消してネットキャッシュが大幅にプラスに転じました。将来の事業成長のための再投資や配当、自社株買い、バランスシートの改善に向けた規律ある資本配分を行っており、5年平均の総還元利回り(配当+自社株買い)は2.25%、5年平均の還元性向は62%台です。
アグニコ株は金価格の上昇を追い風に史上最高値を更新する展開が続くなか、バリュエーション(投資尺度)は予想株価収益率(PER)が22倍台と、過去5年間の平均である19倍台と比較して割高な水準で推移しています。
ただし、米国の利下げや地政学リスク、中銀の旺盛な需要などを背景に、今後も金価格の値上がりが見込まれます。アグニコは政治リスクの少ない地域で鉱山を運営しており、中長期的に安定した金の採掘および収益の拡大を期待でき、株価の上昇基調も続くでしょう。
ウォール街のアナリストによるアグニコ株の目標株価をみていきます。
アグニコの株価アナリスト予想
アナリスト7名のコンセンサス・レーティングは「Strong Buy(強い買い推奨)」です。目標株価の平均値(12か月後)は163.34ドルであり、9月29日終値(166.77)はすでにその水準を上回っています。アナリスト予想の最高値は209ドル、最安値は130ドルです。
| 株価 | |
| 最高値 | 209ドル |
| 最安値 | 130ドル |
<アグニコの株価推移(日足)>
※図はTradingViewより引用
2銘柄目はカナダの金鉱山大手バリック・マイニング(B)です。
バリック(ティッカーシンボル:B)は米国やカナダ、チリなどで金と銅の探鉱・採掘を手掛ける産金会社です。金の生産量ベースで会社全体の46%は政治リスクの小さい北米が占めており、アフリカ・中東が37%、ラテンアメリカ・アジアパシフィックが17%となります。
近年は大規模な金鉱脈が見つかりにくいなか、バリックはすでに「ティア1」と呼ばれる金の優良資産を確保していることが競争優位性につながっています。同社によると、ティア1は年間最低50万オンスの金生産が見込まれ、鉱山寿命が10年超、コスト優位性を持つアセットのことです。
バリックは6つのティア1の金鉱山と3つの銅鉱山を有しているほか、パイプラインを拡大させて金の確認埋蔵量を増加させています。2025年から2029年までの操業中の鉱山において、金価格が1オンスあたり100ドル、銅価格が1ポンドあたり0.5ドル変動するごとに、それぞれオペレーティングキャッシュフローが15億ドル超、10億ドル超増加します
直近の2025年第2四半期決算は生産量の拡大やコスト削減に加え、業界で最も注目される金・銅プロジェクトのパイプラインを推進させ、調整後EPSは2013年以来の高水準となりました。金のAISCは前四半期比5%減の1トロイオンスあたり1,684ドルです。すべての地域が2025年の生産目標およびAISCガイダンスの達成に向け順調に進捗しています。
財務面ではネット・レバレッジ・レシオ(ネット有利子負債÷調整後EBITDA)が0.1、DEレシオが0.14と強固なバランスシートを持ちます(2024年12月期通期)。ムーディーズの長期信用格付けはA3と、産金業界で最高水準です。
規律ある資本配分の下、ティア1資産の長期的な持続可能性を確保するための開発投資および株主還元を続け、5年平均の総還元利回りは2.54%、5年平均の還元性向は179%台です。還元性向は2022年に270%台まで高まりましたが、足元では25%まで低下しています。
バリュエーションは予想PERが13倍台と、過去5年間の平均である14倍と比較して若干割安な水準で推移しています。
ウォール街のアナリストによるバリック株の目標株価をみていきましょう。
バリックの株価アナリスト予想
アナリスト15名のコンセンサス・レーティングは「Strong Buy(強い買い推奨)」です。目標株価の平均値(12か月後)は34.8ドルであり、9月29日終値と比較して5%の値上がり余地があります。アナリスト予想の最高値は51ドル、最安値は26ドルです。
| 株価 | |
| 最高値 | 51ドル |
| 最安値 | 26ドル |
<バリックの株価推移(日足)>
※図はTradingViewより引用
3銘柄目は金鉱山世界最大手の米ニューモント(NEM)です。
ニューモント(ティッカーシンボル:NEM)は米コロラド州デンバーを拠点とし、金や銅、銀、亜鉛の採掘・製錬を手掛けています。
米国やカナダ、アルゼンチン、チリ、オーストラリアなど世界11か所で事業を展開または資産を保有しています。金の埋蔵量ベースではアジアパシフィックが37%と最も大きな割合を占め、ラテンアメリカが32%、北米が24%、ガーナが7%です。
同社は産金量ベースで世界最大の企業であり、ポートフォリオに世界のティア1クラスの優良な金鉱山の過半数を組み入れています。金鉱の開発会社としては唯一、S&P500に採用されています。
ニューモントはティア1の金鉱山を多数有していることから、安定的にオペレーションを遂行するとともにAISCを長期的に引き下げることが期待できます。これにより、FCFの拡大、株主還元および投資適格級にあるバランスシートの強化を図れます。
直近の2025年第2四半期決算は予想と一致し、2025年通期のガイダンス達成に向け順調に進捗している状況です。金のAISCは1トロイオンスあたり1,582ドルで推移しています。安定した事業運営により、過去最高のフリーキャッシュフローを創出しました。
財務面では調整後EBITDAに対する純有利子負債の比率が0.1倍に低下し、強固なバランスシートを構築しています。株主還元については総還元利回りが3.75%、還元性向は60%台です。還元性向は2021年に158%台まで上昇しましたが、足元では18%台まで低下しています。
バリュエーションは予想PERが15倍台と、過去5年間の平均である12倍と比較して割高な水準で推移しています。
ウォール街のアナリストによるニューモント株の目標株価をみていきましょう。
ニューモントの株価アナリスト予想
アナリスト16名のコンセンサス・レーティングは「Moderate Buy(買い、やや強気)」です。目標株価の平均値(12か月後)は81.45ドルであり、9月29日終値(84.54)はすでにその水準を上回っています。アナリスト予想の最高値は105ドル、最安値は68ドルです。
| 株価 | |
| 最高値 | 105ドル |
| 最安値 | 68ドル |
<ニューモントの株価推移(日足)>
※図はTradingViewより引用