この記事のポイント
- トランプ2.0の政策が追い風となるアクソン
- 売上高は21億ドル、TAMは1,290億ドルと大きな成長余地
- アナリストレーティングは「強い買い推奨」、21.5%の値上がり余地(10月6日終値比)
目次 ー Contents
トランプ2.0の政策が追い風となるアクソン(AXON)
アクソン・エンタープライズ(ティッカーシンボル:AXON)株が良好に推移しています。過去1年間の株価パフォーマンスは71.5%高と、多くの機関投資家が参照するS&P500(18.3%高)を大きく上回っている状況です(10月6日時点)。
もう少し長い目でみると、過去5年間で同社株は7.3倍、過去10年間では約3,000%値上がりし、すでに「テンバガー」を達成していますが、更なる成長余地を残しています。
第2次トランプ政権(トランプ2.0)下において、国境の安全確保や不法移民の強制送還を加速させていることが防衛テックの同社にとって追い風となっています。
アクソンは世界の公共の安全分野におけるテクノロジーリーダーです。
弾丸の代わりにワイヤのついた針を発射し電流で相手を無力化する「テーザー銃」を開発、製造、販売しています。警官の暴力的な取り締まりへの批判が強まるなか、殺傷性の低い武器として急速に需要が高まっている状況です。
2033年までに米国における警察と市民間の銃器関連の死亡事故を半減させる野心的な目標「ムーンショット50in10」を掲げています。2025年第2四半期時点では世界85か国で展開しており、17,000を超える米国の州および地方の公共安全機関が同社の製品・サービスを利用しています。
アリゾナ州スコッツデールにある本社に加え、ワシントン州シアトル、 カリフォルニア州サンフランシスコ、マサチューセッツ州ボストン、ジョージア州アトランタ、バージニア州スターリングに拠点を置きます。オーストラリア、ベルギー、カナダ、フィンランド、フランス、ドイツ、ギリシャ、インド、イタリア、オランダ、スペイン、英国、ベトナムにも子会社または事務所を構えています。
事業は「ソフトウエア・センサー事業」と「テーザー事業」という2つの報告セグメントで構成されています。
セグメント別売上高構成比(2024年12月期)

製品カテゴリーは大きく分けて「ソフトウエア」、「センサー」、「テーザー」の3つで構成されています。
アクソンのハードウエア・デバイス(上)、ソフトウエア・サービス(下)


ソフトウエアカテゴリーではデジタル証拠管理、生産性向上、リアルタイム運用ソリューションといったクラウドベースのSaaS(サース)ソリューションを提供しています。米政府が調達するクラウドサービスの基準が定められた認証プログラムFedRAMP(フェドランプ)High認証を取得しており、公共の安全分野でクラウドを活用してハードとソフトを統合したサービスを提供する市場リーダーを自負しています。
「アクソン・エビデンス(Axon Evidence)」は公共の安全分野における動画データや各種デジタル証拠を保管する世界最大のクラウド型公共安全データリポジトリです。米国全州および世界90か国で採用されています。証拠保全用のクラウド「アクソン・クラウド(AXON CLOUD)」なども提供しています。
生成AI(人工知能)を活用したソフト関連ではデジタルエビデンス、リアルタイムの状況認識、レポーティング作成関連ソリューションなどを提供しています。警察官は勤務時間の最大40%を報告書の作成に費やすとされるなか、「ドラフト・ワン(Draft One)」は生成AIとボディカメラ音声を活用して数秒で高品質な報告書の草案を作成できるとして需要が高まっています。
センサーカテゴリーにはボディカメラと呼ばれる法執行機関向け記録用ウエアラブルカメラ「アクソン・ボディ(AXON BODY)」や車載カメラシステム「アクソン・フリート(AXON FLEET)」、ドローン・ロボティクス、ソフト連携デバイスが含まれます。
テーザーカテゴリーではテーザー銃、バッテリー、延長保証サービス、デジタルサブスクリプション研修コンテンツ、仮想現実(VR)訓練コンテンツなどを提供しています。
特にテーザー銃は先進技術、汎用性、携帯性、有効性、内蔵型の責任追跡システム、殺傷性の低さを有しています。これによりゴム弾、ペッパースプレー、従来型スタンガン、レーザー眩惑装置といった非致死性の代替手段との競争において優位性を発揮します。1993年の創業以来、米国の州・地方警察の大半に採用され、地域社会の安全維持に日々活用されている状況です。
アクソンVRソリューションは、没入型VR技術を活用し現場の実情に即した訓練を実現することで、公共の安全訓練のアクセス性や費用対効果を向上させます。
その他、エンドツーエンドのドローン管理ソフトプラットフォームである「アクソン・エアー(Axon Air)」、2024年10月に買収が完了したドローン防衛のDedroneなどを含め、ドローン、ロボティクス、AIといった新たな製品カテゴリーの提供も試みています。これらの分野での取り組みを強化することは、トランプ政権の効率化を目指す政策方針とも合致するでしょう。
アクソンのソリューションはすでに大きな実績が示しています。例えば、刑務所にボディカメラおよびテーザー銃を導入した結果、過剰な力の行使が70%減少、ドラフト・ワンを活用することで事件の報告書作成に費やす時間を67%削減しました。
同社はテーザー銃やボディカメラ、ドラフト・ワン、AI関連ソリューション(AI ERA PLAN)など様々な機能を融合したサブスクリプション(定額課金)「オフィサー・セーフティ・プラン(OSP)」の提供に注力しています。
アクソンのサブスクサービス

OSPの提供を通じて顧客体験の向上や明確なROI(投資対効果)を示すことで、新規ユーザーの獲得やエコシステムを拡大させるとともに、データとデバイスを活用して新製品の開発に生かすこともできます。アクソンにとっては収益の安定・拡大を図る好循環のビジネスモデルを生み出しています。
このように、同社は法執行機関向けに広範な製品・サービスを開発するとともに買収も活用し、ニッチではあるものの拡大を続ける業界で確固たるリーダーとしての地位を確立しています。
セグメント別に製品別売上高構成比をみると、ソフト・センサーセグメントはアクソンエビデンス・クラウドサービスが会社全体の売上高の38.8%、アクソンボディカメラ・アクセサリが同11.9%、アクソンフリートシステムが同5.0%、延長保証が同3.2%、その他が同1.8%になります。
テーザーセグメントはテーザー銃が同21.8%、バッテリーが同11.8%、アクソンエビデンス・クラウドサービスが同2.6%、延長保証が同1.8%、その他が同1.3%で構成されています。
顧客は米国の州政府・地方政府、米連邦政府、世界各国の政府機関、民間企業です。地域別売上高構成比は米国が85%、その他の国々が15%になります。
アクソンの業績動向
アクソンは2021年から売上高の年平均成長率(CAGR)が34%と高成長を遂げています。調整後EBITDA(利払い・税引き・償却前利益)、営業キャッシュフローなども拡大基調にあり、総じて業績は好調を維持している状況です(同社ではEBITDA、売上高、株価を重要指標と位置づけ)。
アクソンの業績指標

アクソンが注力するソフト・サービスは粗利益率が79%と相対的に高く、会社全体の収益性を高める要因になっています。
セグメント別売上高構成比(百万ドル、四半期別)

2022年~2024年までに単一顧客が売上高の10%以上を占めることはなく、顧客の分散が図られています。
8月4日に発表した直近の2025年第2四半期(4~6月期)は、売上高および調整後1株あたり利益(EPS)がともに市場の予想を上回る良好な決算となりました。売上高は前年同期比33%増と、14四半期連続で25%を超える増収を達成しています。ボディカメラ、ドローン、および対ドローン技術に対する需要が増加し、すべての事業部門で成長を遂げました。
年間経常収益(ARR)は同39%増、売上維持率は124%、サブスクリプション売上高は95%超と業績の安定性が増している状況です。2025年12月期通期の売上高見通しも引き上げました。
トランプ2.0下において「米史上最大の不法移民強制送還」プログラムを強行するなか、移民・税関捜査局(ICE)や税関・国境取締局(CBP)は採用を積極化させています。研修期間を短縮するためにスペイン語研修を無くしている模様であり、ここでもAIの利活用を進めるアクソンのソリューションへの需要拡大が期待できます。
例えば、アクソン・ボディ4へのリアルタイム音声翻訳を搭載したり、各機関の様々なポリシーに関する質問に対して即座に回答を得られるツール「ポリシー・チャット」で長い文書を手作業で検索する時間を削減したり、新たに採用した職員の研修支援などとしても活用できます。
同社は米国土安全保障省(DHS)と期間中に調達する物品・サービスの量・範囲について上限・下限のみを明示し、具体的な数量・範囲は発注時に毎回指定する「IDIQ(数量不確定型契約)」を締結しています。これにより、ボディカメラおよびソフトライセンスの販売拡大が期待できます。
トランプ政権はICEとCBPを傘下に収めるDHSに巨額の予算を提供する見込みです。テーザー銃のみならず、証拠保全用クラウド、ドローンによる人物探索(DFR)、AIソフトなど、ハードおよびソフトの両面で販売拡大を期待できるでしょう。
過去40年以上において、米国の公共の安全向けの予算は堅調で増加基調にあります。
米国の公共の安全向け支出

他方、アクソンは米国州・地方の法執行機関への普及率は15%未満と試算しています。
会社側はTAM(獲得可能な最大市場規模)を1,290億ドルと見込んでおり、2024年12月期の売上高が21億ドルであったことから、60倍強に拡大する余地があります。
アクソンのエンドユーザー別、製品エリア別のTAM

既存製品の革新と改良によるアップセル(既存製品よりも高機能、高価格なものへの乗り換えを促す営業手法)、AIやドローン、ロボティクスなど新たな製品カテゴリーの提供によるエコシステムの拡大を通じた多面的な成長を期待できます。さらに法人、海外などへも大きな開拓余地を残します。
アクソンが取り扱う製品・サービスへの潜在的な需要は高いとみられ、例えば、英国の警察官の10人中8人がボディカメラは警察官の安全性を高め、業務を容易にし、市民からの信頼を向上させると述べています。企業のトップの60%が窃盗や犯罪を防止するための技術ソフトおよびソリューションを導入すべく予算を増額しています。
さらに、アクソンの調査によると法執行機関の8割超は人員が不足し、パトロール警官は多くの時間を事務作業に要しています。そのようななか、調査対象の4人中3人の警官はAIが業務を効率化し、捜査活動を改善するとみており、同社のAIを活用したソリューションへの潜在的な需要も大きなものと考えられます。
アクソンは公共の安全向けにクラウドを活用してハード・ソフトを統合したソリューションを提供する市場リーダーとして、強みとする米国の法執行機関に加え、海外、法人向けを中心に今後大きく業績を拡大させる可能性があるでしょう。
財務面では2025年6月期時点においてインタレストカバレッジレシオが6.8倍、財務レバレッジが2.3倍、負債資本倍率(DEレシオ)が0.65倍と、概ね健全な水準と言えます。
アクソンのバリュエーション・株価見通し
S&P 500構成銘柄のうち、アクソンは株主リターン(1年、3年、5年、10年)で上位95パーセンタイルに位置しており、短中期的に良好な株価パフォーマンスとなりました。
アクソンの株価パフォーマンス

アクソンのバリュエーション(投資尺度)は予想株価収益率(PER)が84倍台と、5年平均の72倍台と比較して割高な水準です。しかし、株価が利益成長のスピードに対して割高か割安かを簡易的に判断する指標であるPEGレシオでみると、足元は0.7倍台と割安な水準と言えます。
過去最高値から20%弱値下がりしていますが、世界の公共の安全分野が拡大するなかで、アクソンは強固なビジネスモデル、高成長の維持、収益性の高いAIを含むソフト・サービスへの注力などを評価できるでしょう。ファンダメンタルズに関係なく市場全体に連れ安した際は絶好の買い場になりそうです。
2025年第2四半期決算の発表後にはアナリストによる目標株価の引き上げが相次ぎました。例えば、ゴールドマン・サックスは830ドルから940ドルへ、JPモルガンチェースは728ドルから925ドルへと引き上げています。
ウォール街でアクソン株をカバーする18人のアナリストのうち、買い推奨は16人、中立が2人、売り推奨はゼロ人と、9割弱が同社株に対して強気の見方を示しています。
リスク要因としては、発生確率は高くないとみられるものの、公共の安全分野においてクラウド上で機密データを保存するため、セキュリティリスクやAIインシデントが重大な損害をもたらす可能性があります。
ウォール街のアナリストによるアクソン株の目標株価をみていきましょう。
アクソンの株価アナリスト予想
アナリスト18名のコンセンサス・レーティングは「Strong Buy(強い買い推奨)」です。目標株価の平均値(12か月後)は876.36ドルであり、10月6日終値と比較して21.5%の値上がり余地があります。アナリスト予想の最高値は1,000ドル、最安値は750ドルです。
| 株価 | |
| 最高値 | 1,000ドル |
| 最安値 | 750ドル |
アクソンの株価推移(日足、12か月)
※図はTradingViewより引用