
ポイント
- 米国は世界最大のヘルスケア市場
- 製薬業界の売上高ランキング上位10社のうち半数は米国企業
- おすすめの高成長・高配当・連続増配銘柄5選
目次 ー Contents
米国は世界最大のヘルスケア市場
米国は世界最大のヘルスケア市場です。経済協力開発機構(OECD)が公表する国別の1人あたり医療費を見ても、他を圧倒する規模になります。
<国別の国民1人あたりの医療支出額(ドル)>

米国では国民全員を対象にした公的医療保険制度がなく、医療費が他国と比べて非常に高くなる傾向です。例えば、虫垂炎で入院した場合、日本では30万円を超えるほどですが、米国では私立病院では最大800万円超、公立病院でも200万円超かかります(出所:日本医師会)。
米国の製薬会社は、アンメット・メディカル・ニーズ(有効な治療方法がない疾患に対する医療ニーズ)に応えるべく、莫大な研究開発費を通じて新薬を開発し、世界を代表するメガファーマ(大規模製薬会社)に成長しました。
世界の製薬会社の売上高ランキングでは、上位10社のうち半分が米国企業です。
世界の製薬会社の売上高ランキング(2023年)
順位 | 会社名 | 売上高(億ドル) |
---|---|---|
1 | ジョンソン・エンド・ジョンソン | 852 |
2 | ロシュ(スイス) | 653 |
3 | メルク | 601 |
4 | ファイザー | 585 |
5 | アッヴィ | 543 |
6 | サノフィ(仏) | 466 |
7 | アストラゼネカ(英) | 458 |
8 | ノバルティス(スイス) | 454 |
9 | ブリストル・マイヤーズ・スクイブ | 450 |
10 | GSK(英) | 384 |
米国のヘルスケア企業は世界的に事業を展開していることも特徴の1つとして挙げられるでしょう。
特に、将来的に市場の高い成長が期待できる「がん」や「肥満症」などの分野で有力な医薬品を有し、グローバル市場でも顧客リーチの拡大を図っている状況です。
米調査会社IQVIAは、がんの罹患率の大幅増加に伴い、世界のがんの治療費は2028年に2023年比83%増の4,090億ドルに達すると予測しています。
がんの治療費の推移(10億ドル)

疾患領域としてがんに次ぐ2番目の規模になると見られる糖尿病に関しては、国際糖尿病連合(IDF)の予測によると、2045年までに成人の8人に1人となる約7億8,300万人が糖尿病を罹患する見込みです。
世界中で糖尿病への罹患が増加する見込み

米国企業はグローバルに存在するこれらの巨大なヘルスケア需要を取り込むべく、革新的な医薬品や医療機器、サービスの開発にしのぎを削っています。
株式市場においても一定のプレゼンスを確保しており、S&P500の業種別ウエートでは「情報技術(IT)」、「金融」に次ぐ大きな割合を占めるセクターです。
<S&P500業種別ウエート(2024年5月31日時点)>

米国のヘルスケア関連株(高成長・高配当・連続増配銘柄)5選
ここからは、世界的に圧倒的な規模を誇る米国のヘルスケア銘柄の中から、新NISA(少額投資非課税制度)を活用した投資にもおすすめの連続増配・高成長・高配当銘柄を5社紹介します。
ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)
1銘柄目は医薬品・医療機器大手のジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)です。同社は創業130年超の歴史を誇る世界最大級のヘルスケアカンパニーになります。2023年に祖業の救急ばんそうこう「バンドエイド」を含む消費者向け事業を切り離し、現在は製薬と医療機器などを取り扱うメドテック事業に注力している状況です。
事業セグメント別の売上高構成比(20224年第1四半期)

J&Jはこれまでに、第三者が毒物を混入した「タイレノール事件」や医療用麻薬「オピオイド」を含む鎮痛剤の中毒問題といった危機に直面しながらも、株主に長期にわたる価値を提供してきました。
- 60年超連続増配
- 過去5年間でフリーキャッシュフロー(FCF)の60%を還元
- 世界シェアNo.1もしくはNo.2の製品が売上高の65%を占める
同社は、世界で2社だけとなる格付会社S&Pの信用格付けで最上位となるAAA(トリプルA)を確保しています(残り1社は米マイクロソフト)。J&Jは強固な財務基盤を武器に、巨額の株主還元を実施しており、62年連続増配中の「配当王」です。
米国を代表する優良企業30銘柄で構成される「ダウ工業株30種平均(ダウ平均、NYダウ)」の構成銘柄であります。
J&Jの株価推移
※図はTradingViewより引用
アッヴィ(ABBV)
2銘柄目は製薬大手のアッヴィです。同社は、医療用機器大手のアボット・ラボラトリーズから製薬事業をスピンアウトして設立されました。世界の医療用医薬品で売上高トップに君臨していた関節リウマチ治療薬「ヒュミラ」を筆頭とする自己免疫疾患、血液腫瘍、神経系学などの領域で医薬品を開発しています。
2020年には、しわ取り薬「ボトックス」を主力とするアイルランド製薬大手アラガンを買収し、美容関連などの製品多角化を進めている状況です。
分野別売上高構成比(2024年第1四半期)

主力医薬品のヒュミラは、かつて会社全体の売上高の約4割を占めていましたが、特許切れにより後発薬(ジェネリック医薬品)の攻勢に押されています。2024年1~3月期には、同医薬品の売上高が前年同期比35.9%減と落ち込みました。
一方、乾癬・関節症性乾癬薬「スキリージ」が同47.6%増、関節リウマチ・アトピー性皮膚炎薬「リンヴォック」は同59.3増と好調です。「ブロックバスター(年間売上高が10億ドルを超える医薬品)」の両医薬品がヒュミラの低迷を補っています。
アッヴィの医薬品別売上高構成比(2024年第1四半期)

ヒュミラは依然として8割超の市場シェアを握るとともに、他の自己免疫疾患治療薬の販売が好調なこともあり、2024年通期の希薄化後1株あたり利益(EPS)見通しを引き上げました。
アッヴィは製薬業界の中でも高い業績の安定性を誇り、52年連続増配中の配当王です。2013年のスピンオフ以降、配当額は285%超引き上げられており、「S&P500配当貴族指数」にも採用されています。
アッヴィの株価推移
※図はTradingViewより引用
イーライ・リリー(LLY)
3銘柄目は製薬大手のイーライ・リリーです。同社は創業148年の歴史を誇る米製薬大手です。世界で初めて糖尿病治療薬「インスリン」の大量生産に成功した、研究開発型の製薬企業として知られています。
リリーは巨大な市場となる糖尿病向け、今後の高成長が期待される「肥満症」向けに有力な医薬品を開発、提供しており、足元で急成長を遂げる注目株です。株式市場でも高成長を高く評価されており、時価総額ベースでは製薬業界で首位に君臨します。
同社の2型糖尿病用治療薬「マンジャロ」は、2024年第1四半期に18億ドル超の売上高を計上したブロックバスターになります。肥満症治療薬「ゼプバウンド」は同期に5億ドル超売り上げており、この勢いが続けばブロックバスターに成長する見込みです。
一大市場を形成する糖尿病市場に加え、肥満症治療薬市場も高い伸びが見込まれています。米モルガン・スタンレーによると、世界の肥満症治療薬市場が2022年の24億ドルから2030年に770億ドルへと急拡大する見込みです。
世界の肥満症治療薬市場の推移(億ドル)

米ゴールドマン・サックスが肥満症治療薬市場は2030年までに1,300億ドルに達すると予測するなど、ウォール街の多くのアナリストが強気の見通しを示しています。
リリーは糖尿病治療薬の新規適応拡大(NILEX)、より高い減量効果が期待される肥満症治療薬などのパイプライン(新薬候補)開発も順調に進捗している状況です。今後も、巨大な需要が見込まれる糖尿病および肥満症市場をリードすることが期待できるでしょう。

赤丸で囲んだものは、糖尿病治療薬もしくは肥満症治療薬の新有効成分含有医薬品(NME)またはNILEXとして承認取得を目指す。
6月10日には、米食品医薬品局(FDA)の諮問委員会が、リリーのアルツハイマー病治療薬「ドナネマブ」の承認推奨を全会一致で決めました。FDAが最終的に承認すれば、リリーにとってはゼップバウンドに続き、アンメットニーズに応える治療薬を提供できることになります。
リリーはこれらの有望な医薬品(パイプライン含む)を開発・提供し続けることで、「グロース株」として高い成長が期待できるでしょう。
イーライ・リリー(LLY)の株価推移
※図はTradingViewより引用
インテュイティブサージカル(ISRG)
4銘柄目は手術支援ロボットを手掛けるインテュイティブサージカルです。同社は手術支援ロボット「ダビンチ・サージカル・システム」などを開発・販売する医療機器メーカーになります。
主力製品のダビンチは、腹腔(ふくくう)鏡手術用として世界で初めてFDAの承認を受けた手術支援ロボットシステムです。世界の手術支援ロボット市場で約8割のシェアを握る最大手になります。
インテュイティブの次世代手術支援ロボット「ダビンチ5」

ダビンチは本体だけでも数億円し、医師がロボットの操作に慣れる必要もあるため、一度導入されると「乗り換えコスト」が発生します。インテュイティブにとっては高い参入障壁を築けることになるでしょう。
ダビンチを導入後には、消耗品となる医療器具、オンライン・オンサイトでのトレーニングサービス、オペレーティングリース(固定支払いもしくは使用ベース)からの売上により、安定した収益源を確保している状況です。
繰り返し利用される製品・サービスの売上高である「リカーリング・レベニュー」は、2023年に売上高の83%を占めています。
インテュイティブの売上高推移(百万ドル)

高度なスキルを持つ医師不足や世界的な高齢化を背景に、インテュイティブは進化し続けるダビンチを武器として、今後も業績の拡大が期待できるでしょう。
インテュイティブサージカル(ISRG)の株価推移
※図はTradingViewより引用
ファイザー(PFE)
5銘柄目は製薬大手のファイザーです。同社は1928年に「奇跡の薬」とされたペニシリンの量産に成功したほか、新型コロナウイルスワクチンの使用を世界で初めて承認されるなど、イノベーションを発揮して米国を代表するメガファーマに成長しました。
コロナ特需が掃けて以降は業績が落ち込んでいますが、足元ではコスト削減策が奏功し、業績の改善の兆しが見えはじめています。新型コロナ薬は、通期で80億ドル(約1兆2,000億円)の安定したキャッシュフローを創出する見込みです。
オンコロジー領域で世界をリードすることを目指す中、ファイザーは2014年から2023年までに同分野の売上高が19%の年平均成長率で拡大し、業界平均(10%)を上回る伸びを示しました。
ファイザーはオンコロジー領域に注力

2030年までに治療を受ける患者数が2倍に拡大する見込みであり、パイプラインの開発も順調に進捗している模様です。
同社は強力なキャッシュフロー創出力を武器に、積極的に株主還元を実施しています。6月11日時点の予想配当利回りは5.91%と、S&P500の1.41%(5月31日時点)、S&P500ヘルスケア指数の1.66%((5月31日時点)を大きく上回っています。
ファイザー(PFE)の株価推移
※図はTradingViewより引用