
ポイント
- 製薬業界で時価総額首位に躍り出たリリー
- 市場はリリーの肥満症治療薬を高く評価
- アナリストは「強い買い推奨」推奨
目次 ー Contents
製薬業界で時価総額首位に立つイーライ・リリー(LLY)
イーライ・リリー(Eli Lilly)は創業148年の歴史を誇る米製薬大手です。世界で初めて糖尿病治療薬「インスリン」の大量生産に成功した、研究開発型の製薬企業として知られています。
本店所在地 | インディアナ州インディアナポリス |
創業年 | 1876年5月10日 |
売上高 | 約341億ドル |
従業員数 | 4.4万人超(約1万人が研究開発に従事) |
販売国数 | 約105か国 |
足元では、「人工知能(AI)」に次ぐ注目セクターの1つと言っても過言ではない「肥満症治療薬」を武器に、急成長を遂げている状況です。
米国では成人の4割超が肥満とされる中、米起業家イーロン・マスク氏やセレブリティーが肥満症治療薬を使用するのに伴い、国民の間で瞬く間に人気が高まっています。2024年3月には、「ECの巨人」アマゾンが、リリーの肥満症治療薬を自宅に配達するサービスを開始しており、米国で需要が急拡大していることがうかがえます。
株式市場でも高い評価を得ており、AIブームの恩恵を受けるエヌビディアを筆頭する「マグニフィセントセブン(壮大な7銘柄、M7)」に割って入る勢いを保っています。
イーライ・リリー、M7、S&P500の年初来騰落率

リリーが属す製薬業界の中でも圧倒的な株価パフォーマンスを上げています。2018年からの6年間で株価は約7.5倍値上がりしました。

製薬株は業績が安定した「ディフェンシブ銘柄」
製薬会社は人びとの健康や生活に密着した製品・サービスを提供していることから、景気変動の影響を受けにくく、業績が安定した「ディフェンシブ銘柄」として注目されます。一方、「世紀のやせ薬」を開発したリリーはグロース株と言えるほどの成長力を示している状況です。
2023年の売上高ベースでは世界11位になります。
世界の製薬会社の売上高ランキング
順位 | 売上高(億ドル) | |
---|---|---|
1 | ジョンソン・エンド・ジョンソン | 852 |
2 | メルク | 601 |
3 | ロッシュ | 587 |
4 | ファイザー | 585 |
5 | アッヴィ | 543 |
11 | イーライ・リリー | 341 |
一方、時価総額ベースでは世界首位に君臨しており、リリーは肥満症治療薬を武器に高い成長が期待されていることがうかがえます。
世界の製薬会社の時価総額ランキング
順位 | 時価総額(億ドル) | |
---|---|---|
1 | イーライ・リリー | 7,913 |
2 | ノボノルディクス | 6,234 |
3 | ジョンソン・エンド・ジョンソン | 3,557 |
4 | メルク | 3,260 |
5 | アッヴィ | 2,863 |
米国市場に上場している企業の時価総額ランキングを見ると、すでにM7の一角であるテスラを追い抜いており、JPモルガン・チェースやエクソン・モービル、ユナイテッド・ヘルスといった各業界の最大手も上回っています(6月5日時点)。
高い成長期待から新M7の一角に推す声も挙がっている状況です。
市場はイーライ・リリーの肥満症薬を高く評価>
イーライ・リリーを製薬業界で時価総額首位のプレーヤーにまで押し上げた要因の1つが、持続性GLP-1受容体作動薬「チルゼパチド」でしょう。
GLP-1は、食事を摂ると小腸から分泌されるホルモン(インクレチン)であり、血糖値を下げるインスリンを分泌させる効果を持つほか、満腹感を維持して体重管理にも有効とされています。
2023年7月には、チルゼパチドの第3相試験(第3フェーズ、後期臨床試験)で患者の体重が平均で26%減ったと発表しました。競合のノボ・ノルディクスの肥満症治療薬「ウゴービ」よりも高い体重減少作用となり、市場で高い関心を集めています。
チルゼパチドは治療目的に応じて名称が変わり、2型糖尿病用注射薬として「マンジャロ」を、肥満症治療薬として糖尿病治療薬を転用した「ゼプバウンド」を販売しています。
イーライ・リリーの肥満症治療薬「ゼプバウンド」

ゼプバウンドは2023年に、サイエンス誌が最も重要で影響力のある革新技術を紹介する「ブレイクスルー・オブ・ザ・イヤー」を受賞しました。同賞には過去に、天文学に革命が起きたと評される「ジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)」や新型コロナウイルス感染症に使われた初めてのワクチン「mRNAワクチン」なども選ばれています。
2030年までに米国の成人のおよそ半分が肥満になると予測されています。肥満に起因した疾患として、冠動脈疾患、脳梗塞、睡眠時無呼吸症候群、脂質異常症、高血圧などが挙げられます。そのため、肥満を放置すると全身に悪影響を及ぼす可能性があると言えるでしょう。
一方、GLP-1はインスリンを分泌するよう働きかける膵臓(すいぞう)のほか、胃や脳などにも存在しているため、心不全や腎臓病、パーキンソン病など、さまざまな臓器の病気への効果が期待されています。
実際に、ゼプバウンドは減量効果に加え、睡眠呼吸障害の軽減に有効なことを後期臨床試験で確認しました。2型糖尿病や肥満症以外の疾患にも効果があると承認されれば、GLP-1製剤のゼプバウンドはさらに市場での評価が高まるでしょう。
米モルガン・スタンレーによると、世界の肥満症治療薬市場は、2022年に24億ドルから2030年には32倍の770億ドルへと急拡大する見込みです。
世界の肥満症治療薬市場の推移

肥満症治療薬市場の急拡大が見込まれる中、リリーは関連薬のパイプライン(新薬候補)も豊富に揃えています。
イーライ・リリーの肥満症治療関連薬のパイプライン(新薬候補)

赤丸で囲んだものが新有効成分含有医薬品(NME)として承認取得を目指す。
中でも、より高い減量効果が期待される注射型の「レタトルチド」、より手軽に続けられ、大量生産が可能とされる経口タイプの「オルフォルグリブロン」などは、最終となる第3相臨床試験の段階です。
既存のゼプバウンドの生産拡大に加え、これらのパイプラインが順調に進捗すれば、肥満症治療薬市場でリリーの優位性がしばらく続くと見られます。
イーライ・リリーの業績動向
ここからはリリーの業績動向を見ていきましょう。
2019年から2023年までの5年間で、売上高、希薄化後1株あたり利益(EPS)ともに順調に拡大しました。
- 売上高は53%増(223億ドルから314億ドルへ)
- 希薄化後EPSは85%増(3.13ドルから5.80ドルへ)
収益性の高さも際立っています。
- 5年平均の粗利益率は77%
- 5年平均の自己資本利益率(ROE)は97%
- 5年平均の投下資本利益率(ROIC)は27%
参照:モーニングスター
製薬業界の中でも高い生産性を誇ります。
<高い研究開発の生産性を誇るリリー>

足元の業績も好調を維持している状況です。
4月30日に発表した2024年第1四半期決算は、肥満症治療薬としても利用される同社の糖尿病治療薬マンジャロやゼプバウンド、乳がん治療薬「ベージニオ」、糖尿病薬「ジャディアンス」が業績拡大をけん引しました。
ゼプバウンドは2023年11月に米食品医薬品局(FDA)より承認されて以降、初のフルの四半期決算となった第1四半期には、5億ドル超の売上高を計上しています。この勢いが続けば年間売上高が10億ドルを超える医薬品を指す「ブロックバスター」に成長する見込みです。マンジャロは同期に18億ドル超になります。
ゼプバウンドとマンジャロに関しては、強い需要に対して生産が追い付かない状態が続いていますが、新工場への追加投資に伴う増産が見込まれます。これにより、2024年12月通期の業績見通しを引き上げており、今後も良好な業績推移を見込めそうです。
<ウォール街のアナリストによる目標株価>
ウォール街のアナリストによるリリー株の目標株価を見ていきます。
イーライ・リリーの今後の株価予想
ウォール街のアナリスト23名のコンセンサス・レーティングは「Strong Buy(強い買い推奨)」です。目標株価の平均値(12か月後)はドルであり、6月4日終値と比較して7.1」%の値上がり余地があります。アナリスト予想の最高値は1,001ドル、最安値は785ドルです。
株価 | |
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最高値 | 1,001ドル |
最安値 | 785ドル |
イーライ・リリーの株価推移
※図はTradingViewより引用